第23話

 テスト期間から解放された学生は呪いから解放されたように日常に戻っていく。中には戻れずに悲鳴を上げている人も居るようだが、俺には全く関係ないことだった。


 今回のテストも数学以外は大体予想の範囲内の点数。平均点から大きく離れない辺りをきれいに取ることが出来ている。


「テストの勝負はどうだったよ。秋博」


 帰り支度をしていると、光希が憎たらしい笑みを浮かべながら近づいてくる。


「分かってて聞いているよな。俺の負けだよ。負け。もうあんな意味の分からない問題はやめてほしいもんだよ」


 終わってしまってから何を言っても無駄なことは理解しているが、俺達の勝負の命運を分けたのは、やはりあの問題だった。あれさえなければ、引き分けで終わることが出来たはずなのに……。


「別に良いだろう?一点分ぐらいサービス問題があった方がこっちとしてもやる気が出る」


 あの問題のどこがサービス問題なのか一切理解出来ないが、光希はどこか嬉しそうに語り始めた。


「まさかあの深冬先生が自分から個人情報をさらけ出すとは思ってもいなかった。この調子で色々情報を開示していってほしいものだよ」


 どうやら、光希の言っているサービス問題は方向性が違ったらしい。テストの点数を稼げることよりも、謎に包まれている深冬先生の情報を得ることが出来ることに意味があったみたいだ。まさか、俺の友達がここまで深冬先生の情報に飢えているとは思ってもいなかった。


「ところで、お前が放課後一番に帰らないなんて珍しいな」


 まだ帰ることができない理由があった。普段なら誰よりも早く教室を出るから、俺がこの時間にまだ自分の席にいることを光希は不思議に思っているようだった。自分自身、こんな時間まで教室に残っていることは不思議でたまらない。


「俺だって、驚きだよ。でも、勝負に負けた俺には拒否権はないわけだ。どうせ部活も予定もあるわけじゃないから問題ないけれど」


 途中まで聞いて光希はもう教室から出ようと歩き出していた。一瞬映った表情は思いっきりニヤけている物で、少しイラッとしてしまう。


 そのまま、部活にでも行くのだろうと思いながら、光希の後ろ姿を見送っていると教室から出る前にふと足を止めた。


「秋博。余計なお世話かもしれないけれど、高校二年生なんていう青春の代名詞の日常はあっという間に過ぎていくぞ。日々を大切にした方が良い。それじゃあ、頑張れよ!」


 明るく言葉を残して光希は教室を出て行った。


 時々、あいつのことを同い年だとは思えなくなるときがある。俺だって永遠に高校生活が送れないことも、くだらないことを言い合っていられる日々が続くとも思っていない。でも、同時にこの当たり前が無くなった自分の生活を想像することは出来なかった。


 なんで、あいつはあんなに意味深なことを言い残していったのだろうか?いまいち理解出来なかった。



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