第16話
家に帰ると僕はランドセルから貰った色鉛筆を取り出し、ランドセルの方はベッドに投げた。そして、すぐに仕舞ってあったスケッチブックを棚から取り出して、勉強机の上にスケッチブックを広げて椅子に座る。
夏花ちゃんから貰った色鉛筆を机において、缶のケースをゆっくりと開ける。
「さて、何を描こうかな」
色とりどりの鉛筆を眺めると違和感があった。
「何だろうこの紙?」
色鉛筆達の上に小さく2つに折り畳まれた紙が入っていた。それを手に取って広げると中から何かが床にこぼれ落ちていく。
慌てて落ちた物の正体を確認すると、床にはヘアピンが落ちていた。机の下に潜り込むようにして、それを拾う。
「何でヘアピンが入っているんだろう?間違えて入れたのかな?」
椅子に座り直して、紙に書いてある文字に目を落とす。
『世界を見やすくするアイテム!』
短い文章が記されていて、読んだ瞬間は意味が分からなかったけれど、中に入っていた物を見て、全てを理解した。
「そういうことか……」
僕は同封されていたヘアピンで視界を遮ってくれていた前髪をまとめた。絵を描くときには少し邪魔くさかった物がなくなり視界が開ける。
夏花ちゃんはサプライズを仕掛けてくれていたようだ。色鉛筆を貰っただけでも凄く嬉しかったのに、追い打ちを掛けるようにして喜びが溢れてきた。
「よし!僕も夏花ちゃんが驚くぐらいの絵を描くぞ」
気合いを入れて、夏花ちゃんにプレゼントをするための題材を考える。絵をプレゼントすると言っても何を描くか決めないことには始まらない。
夏花ちゃんが好きな物を描いてあげたら喜んでくれるかと思ったけれど、これまでに何度かお願いされて、学校の花壇に咲いていた花を描いたことがあった。夏花ちゃんが他に好きな物が見当も付かない。
腕を組んでじっくりと考える。
「僕が描いた絵は大体夏花ちゃんも見ている。だから、それじゃ、サプライズにはならない。もっと、これまでに無いような……」
何かが降ってくるような感覚が身体中を駆け巡る。僕がこれまでに描いてこなかった絵があるじゃないか。
「夏花ちゃんを描こう!」
僕がこれまで一度も見せたことがないのは、人物画だけだ。人のことを観察するのは苦手だけれど、夏花ちゃんのことは目で追ってしまっている自分がいた。
それに、夏花ちゃんが言っていた。
「今アキ君が描きたいと思う絵を描いてほしい」
僕は初めて人物を描いてみたいと心の底から思った。だから、迷いはない。残り一ヶ月で自分の納得がいく物を描くことが出来るのか。少々不安もあるけれど、開けた視界で僕はまず黒い鉛筆を手に取った。
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