第8話『普通の贈り物』

「自分で立てるか?手伝うぞ」

「大丈夫よ」


レオナはアタシが差し出した手に頼らず自力で立ち上がった。


「しかし魔法で傷を治すってのは、お前の意識が無くても出来るんだな。驚いたぜ」

「私も知らなかったわ。魔法少女になってからこんな事態になったことは今まで一度も無かったから」

「そうだ、忘れないうちにこれは返しておくぜ」


アタシは笛を2つとも手渡した。


「1つ気になるんだけどよ、アスカの奴が言ってたよな、普通の笛だと大きな怪我は治せないって。アタシがレオナに吹かせたのって、普通の小さい笛だったろ。それなのにどうして頭の怪我が治ったんだ」

「これは普通の笛じゃないわ。私が孤児院にいた時からずっと使っていた笛よ」

「お前、孤児院出身だったのか」

「そうよ。このご時世、珍しいことでもないでしょ」


レオナの言う通り、20年前から消滅濃霧バニッシュミストが日本各地で観測されるようになってからというものの、家族が行方不明になる事態が多発している。親を失った子供は数知れず、子供たちを救済するため孤児院が幾つも造られた。


「私は生まれて間もない頃に孤児院に置き去りにされたの。誰が連れて来たのか、両親は生きているのか、それすら分からないわ。ただ、1つ分かっているのは、この笛が私が拾われたのと同じ日に孤児院に寄付されたってことよ」

「そうか。ってちょっと待て、同じ日に寄付された?どうしてそんな回りくどい言い方なんだ。はっきり親の形見だって言えばいいだろ」

「そうとは限らないわ。だって私が首から下げていたとか、私の入ってた籠の中から見つかったものじゃないもの。その日、ある支援者から送られた寄贈品の中から見つかったのよ」


なんだよそれ。じゃあ赤の他人がよこした笛をずっと大事に持ってたってわけか。


「アナタの言いたいことは分かるわ。なんでそんなものを大切にしてるのかって。運命を感じたのよ」

「運命?」

「そう。霧の発生から20年経った今でこそ霧を恐れず行動する人が増えたけれど、当時はそうじゃなかった。多くの人が保身的になり消極的になり、折角造られた孤児院にも十分な寄付が集まらなかったそうよ。そんな中でも寄付をしてくれた人がいた。勇気ある人がいてくれたから、私は今こうして生きていられる。そう思わない?」


なるほどな。寄付自体が少なく、日付が自分の預けられた日と同じだから運命を感じたのか。

…でもそれだけだと怪我が治った理由になってないような。はぐらかされたのか?


「…アナタもその、勇気ある人の一人よ」

「…何か言ったか?今ちょっと考え事してて」

「何でもないわ」

「そうか。ちなみにだけどさ、そっちの笛吹いてたらどうなってたんだ」


大きな音が鳴る赤い笛のほうを指差した。


「これは魔法少女になって半年後に購入したものよ。笛のスペアがあると便利だからって協力者にお願いして買ってもらったの。だから大した思い入れのある品じゃないわ」

「ふーん」

「アナタが吹かせたのがこっちの笛じゃなくてよかったわ」


…てことは、あっちを選んでたらレオナは今頃…いや、考えないでおこう。


「それより今はあいつを倒すのが先決よ」


二人は坂本大悟郎を睨みつけた。


「けっ、生きていたか呼子笛のレオナ。しぶとい女め。だがまだ終わってはいない!」

「いいえ、終わりよ。もう爆竹も無いみたいだし、結局アナタの作戦は上手くいかなかった。諦めなさい」


レオナは赤い笛を手に持った。


「おっといいのか、少しでも笛を吹く素振りを見せてみろ。お前のお姫様をズタズタにしてやるぞ」

「た、助けてください~!」


男にナイフを突き付けられたヒメが情けない声で叫んだ。


「それによ、こっちにばかり気を取られてもいられないはずだぜ。お仲間を助けに行かなくていいのか?」


そうだった、まだツバキたちが戦っているんだった。

アタシはツバキ、カザリの姿を探した。即座に二人が同じところに固まっているのを確認した。周囲に四人の男たちが倒れている。

良かった。二人とも無事で何よりだ。きっとツバキがあいつらの想定より強かったんだろう。

しかしカザリのやつ、何やってんだ。あの赤と黒を基調としたドレス、魔法少女に変身したのは分かる。だが右手に握られているあれ、どう見ても…フライパンだよな。


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