外伝 鋼脚少女は挫けない Ⅳ

「……社会に恨みを持つサイボーグのテロリスト──というか暴徒の集団ってとこかしらね」


 人質が集められた一角の片隅で、それまで事態を静観していた梓がボソリと呟く。

 傍らに膝を抱えて座り込んでいた太一は、チラリと目線を向ける。

 梓は何を気負うでもなく平然としていた。


(なんでコイツはこんな平気な顔していられるんだ?)


 と疑問に思いながら、太一は小声で尋ねる。


「どういう事だよ?」

「アイツらは最初から取り乱して命乞いする人質を撮影する気でいた。社会に対して強い恨みがあって、誰かに恥をかかせてやろうって思考回路の人間がやることだわ」


 梓は冷静な目で、襲撃者たちを見ている。

 それはまるで猟師が獲物を狩る算段を立てるために、注意深く茂みを観察するような──そんな雰囲気が漂っていた。


「しかもそれなりに知恵は回るし、やり方が馴れてるわね。あのグマって男は、反社崩れかな」

「なんでそんな事が分かるんだ」

「アイツら身代金を、現金じゃなくて宝石で要求してたでしょ? 現金は印刷番号があるからアシが付きやすいし、電子通貨は論外──でも宝石類なら闇で流しても、金に換えるのは簡単。延べ棒でもいいけど金は重たいしね……その点宝石は軽くて小さいから逃亡する時も邪魔にならないわ」


 太一は呆気に取られたように梓を見やる。

 いくら小学生の太一でも、梓がスラスラと述べた事が、普通の女子高生から出てくるような内容ではないという事は分かる。

 

 テロリストが身代金として要求する際、都合のいい品物に関して、流暢に話せる女子高生などそうそういないだろう。

 ますます太一は梓に奇異な者を見るような目を向ける。


(コイツ何者なんだ……⁉)


「おいお前ら何をくっちゃべってやがる」


 と、二人の会話を耳ざとく聞きつけ、グマが凄んだ。


「ぶっ殺される人質の最初の一番になりてぇのか? あぁン?」

「っ……!」


 近づいてくるグマに太一は震えるが、梓は全く取り乱す様子を見せない。

 梓は無反応無表情のままでいたが、『あっ』──と何か思いついた風に、窓の方へと視線を送る。


「その……窓の外に警察っぽいヘリがチラッと見えたから、もしかしたらもうすぐ助かるかもねって話を」

「何ィ?」


 グマは鼻白で窓を確かめ、太一は梓の言動に戸惑う。

(一体何を言っているんだ?)


 さっきまで太一も同じように窓を見ていたが、そんなヘリなど一度も見ていない。


「まさか特殊部隊って奴か? でも何だってヘリで上から──」

「ここってタワーの上層で、防犯カメラとかもも下からくる人間に対して設置されてるでしょ? ハイジャック犯が防犯システムをハックしてたら、下層階からこっそり近づくのは難しい──だから強襲部隊を屋上から突入させたいんじゃない?」

「!」

 

 グマは視線を天井へ向ける。

 その目には焦りのようなものが浮かんでいる。


「こっちには人質がいるんだ。日本の警察サツが、そんな強硬手段に簡単に出るはずが──」

「国際的にも『テロには屈しない』が標準なっているし、サイボーグが強盗等の重犯罪に及んだ場合、逮捕よりも射殺を優先するから──上の管理フロアから一気に突入、人質を撃つより先に全員射殺って作戦かも」

「‼」

 

 さっきよりも大きな衝撃が、グマと目出し帽の男たちに広がる。


「ど、どうすんだよグマさん」

「狼狽えんじゃねぇ!」



 浮足立つ仲間に、グマは一喝する。

 グマは散弾銃を構え直すと、ニヤリと梓に笑いかける。


「ありがとよお嬢ちゃん──けど何かお前ムカつくわ」


 言うが早いか、散弾銃の銃床で梓を殴りつけた。

 銃床で頬を張られた梓は、派手に吹き飛んで横っ飛びに倒れる。

 グマは一瞬『おや?』という表情で倒れた梓を見たが、すぐに被り振って仲間に激を飛ばす。 

 

「上の管理フロアで迎え撃つぞ! 一人残して後は俺に続け!」

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