3-8
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「じゃあ、私は先にトイレ入るから、ユリはその間に血を洗い落としといてね」
彼女はそう言って個室の中に入って行った。鍵がかかるのを確認すると悠里はすぐ個室に近づいた。扉を押しすぎないようにそっと手を触れ、接しているかいないかぐらいに耳を当てる。鼓膜と扉の僅かな隙間が共鳴して鼓動が高鳴ってるのが分かった。悪いことをしている自覚がある鼓動。けどやらずにはいられない。本能に従わずにはいられない衝動。
トイレに一緒に行くなど普段は休み時間ぐらいしかない。しかし、それでは周囲の視線が気になってこんなこと出来ないだろう。しかし、今は違う。この校舎にいるのは二人と付属品のようなオス二匹だけ。この私の興奮を止められる者など誰もいやしない。強い決意のもとに悠里は中の物音に耳を澄ませた。
扉の奥からは布の擦れ合う音が聞こえる。それとともに彼女の鼓動も速くなっていった。まるで周囲にも聞こえているんじゃないか、というくらい大きく高鳴る。
ああ、きっと彼女はジャージのズボンを脱いで、下着も脱いで、下半身をあらわにしているんだわ。そう思うだけで、想像するだけで、下腹部がきゅっと締まった。頭の中で修学旅行や部活の合宿で見た彼女の裸体を思い浮かべて、今の状況と重ね合わせる。
想像力豊かな彼女の頭の中ではその光景がすぐに想起された。まだ未発達な乳房を隠したジャージを着ている彼女。けど、下は何も履いておらず、すらっとした白い脚とその付け根に申し訳程度に植えられた■■■■■■。それを頭に描いただけで、甘い汁が漏れる感覚に襲われた。
冷たい便座に小ぶりな臀部が乗っかる音に耳を澄ませながら悠里は回想した。この思いに気づいたのはいつ頃からだろう。小学校で初めて会った時から? それとも体育の着替えで彼女がスポーツブラをつけているのを見た時から? 中学に入って制服姿を見た時から? テニスウェアを着ているのを見た時から?
「いつから」なんて考えても始まらない。私は自分でも感知できない前世や、別次元や、そんなところで彼女へ赤い糸を向けることを運命づけられていたのだ。
個室の中から何か大きいものが狭い通路を通るときの音がした。ああ、と悠里は呼吸を忘れるぐらいその音に集中した。ああ、ああ、今してるんだ。不浄だけれども清純な、高潔なのに汚濁なものを彼女は出しているんだ。
「あれ」を出す時、あやちゃんはどんな表情をするんだろう。きっと赤ちゃんを産むときのような顔をしてるはずよ。私とあやちゃんの性別の壁を超えた愛の結晶を産むときの。その表情を想像する。
■■■■■■■にして、真っ白な便座に腰掛けたあやちゃん。上を向いたまま顔を歪ませてお腹に力を込めるあやちゃん。その光景が悠里の頭の中にありありと浮かんだ。途端にじわりと下が滲む。
「何か」が水に落ちる音が聞こえて悠里は再び自身の思いを顧みた。自分が周囲とは違うことは綾子に想いを寄せている時から気づいていた。だから、この思いはまだ彼女に気付かれてはならない。彼女はまだ外を知らなすぎるから、私の想いを知ったら戸惑ってしまうだろう。
そう、きっと私たちは愛し合うにはまだ早すぎるのだ。だから、悠里はファンクラブを作った。綾子のことを近くで見られるようテニスも人一倍がんばった。あなたに生徒会が忙しいからと部長を任せられた時はどんなに嬉しかったことか。きっとあれは私のことを信頼してるからだわ。それって、それって、もう、もう、もう!
やがて水と水が打ち解けあう音が聞こえた。そう、この音よ。この音が聞きたかったんだわ。彼女の■■から流れ落ちる■■の音。私は■■が好きだ。もっと言えば■■を出してる女性を見るのが好きだ。■■という生物に元から備わっている機能を実行するということは、理性的で高貴な存在の人間が原初の姿に戻るようで興奮する。
それをあの才色兼備で誰からも羨まれる澁谷綾子がやるんだから、余計心が湧き立ってしまう。彼女の野生的、いや野「性」的な姿なのだ。それはセックスとも共通する概念である!
妄想や考え事にふける時、必ず「声」が悠里のことを邪魔する。けど、こうして欲望のままに身をまかせ、身体を火照らせることでそんな声も聞こえなくなってしまう。今、私は誰にも邪魔されずに彼女を■■■いるんだ!
「ユ、ユリ?」
目の前からそんな声が聞こえて、悠里はハッと我に返った。先ほどまでぼんやりしていた思考が引き波のようにはっきりして来る。目の前には彼女が思いを寄せる女の子がいた。個室の扉が開いて顔を覗かせる綾子はとても心配そうに悠里のことを見つめている。一度、静まった鼓動が再び速くなっていく。
「大丈夫? すごい顔色悪そうだけど」
彼女の頬は紅潮しており、悪いというよりはむしろ健康な人間の正しい反応だった。しかし、この思いを綾子に気付かれるのはまずい。彼女とはもう少し仲良くなって、デートや食事を何回か重ねたのちにこの思いを伝えるんだ。
それまでにバレてしまえばきっと彼女は冷めてしまって、悠里のことを拒絶するだろう。そんなことは絶対にさせない!
「顔の血も洗い流せてないけど、本当に大丈夫? 何かあった?」
最後の綾子の言葉に一生懸命言い訳を探していた悠里は活路を見出した。そうだ、何かあったことにすればいいんだ。本当はあなたの■■■を聞きながら■■していたけど、想定外の事件が起きたことにすれば、あやちゃんは気付かない。なんならここでの怪異も巻き込んでしまえ!
「そ、そうなの。あやちゃんがトイレに入って、顔を洗おうとしたら、私の後ろに白い着物を着た女の人が鏡ごしに見えて……」
「えっ、それは本当?」
悠里の予想通り綾子は食いついた。
「きっとそれはトイレのクミ子さんだわ。さっきの技術室のピエロといい、理科室の骸骨たちといい、『津江中学校の七不思議』は本当にあるのよ」
綾子の口調はやや興奮気味だった。本当はこんなオカルトチックなことに興味をもつ人とは関わり合いたくない。けど、あやちゃんであればそれがギャップに見えてしまう。
これが分かりやすい矛盾だと彼女自身も勘づいてはいた。しかし、それ以上は深掘りしようとしない。悠里が綾子のことを好きなのは自明のことで、きっと悠里の抱いている「愛」というのは、矛盾を生み出す感情なのだ。彼女はそう解釈していた。
「う、うん、そうだね。——あっ、私もトイレ使ってもいい?」
なんでトイレを使うのに許可がいるのだろうと、自分でも言ってておかしく思いながら悠里は許可を申請した。
「うん、いいよ」
綾子は何気ない口調でそれを了承する。
綾子と悠里は入れ違いになり、悠里は個室の鍵を閉めた。そう言えば、電気がつかないから、個室の中はほとんど真っ暗で何も見えないな。あれ、あやちゃんってトイレの水流してたっけ? トイレの水が流れる音がした記憶がない。きっと私が妄想に耽っているうちに流しちゃったんだろう。
悠里はジャージのズボンを脱ぎ、下着も脱いだ。ショーツのクロッチが湿っているのが、触れてみて分かった。あぁ、きっとシミになってしまってるな。お母さんに見つかる前に手揉みしておこう。
便座に腰掛ける。ヒヤッとする感触がして仄かな冷感が全身を駆け巡った。それがやけに新鮮で、冷めかけていた躰を再び火照らせた。少し脱力して■■を出す。■■■■■■■■■を通っていく感覚が敏感になった■■から脳に伝達された。シャーという射出音からワンテンポ遅れて水と水が打ち解ける音が聞こえる。それはどこか心地よく、それでいて生臭く彼女の耳を刺激した。
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