第51話 今日もバトル日和1

 プロローグ



 昼下がり、学校は終わった。

 今日も空は高く、ラディすけの鎧のように曇りなく青かった。

 晴れやかな天気ではあったが、ラディすけの心は晴れなかった。シーザの最後の言葉が刺さっているのだ。

「これで勝ったと思うなよ……か」

 俯いていた顔をあげる。空を見上げると、太陽が眩しかった。

「クヨクヨしてても始まらねえ! 来るなら来いってんだ」

 ラディすけは守人の呼ぶ声に返事をし、守人の肩へとよじ登った。

「いこうぜ公園によ」



   1



 練金窯の前で再びシーザは何かを作っていた。

「カイル、何をしているんだい?」

 矢部の問いかけにも答えず、一心不乱に何かを作っている。

「やれやれ」

 矢部はニヤつきながらシーザの様子を見ている。

「高和」

「なんだい? カイル」

「できたぞ」

「何ができたんだい?」

「憎悪の種だ」

 それはヴァルきちを火龍ファーブニルへと変貌させた、悲嘆の種の強化版。

「純度が上がったから、もっといいことができるぞ」

「へえ、そうなんだ」

 すると矢部はシーザを拾い上げる。

「キミに植えてみるってのも手だね」

「それを頼もうと思っていた。憎悪の種とはいえ、コントロールさえできれば大きな力になる」

 矢部は大きく笑う。手にした憎悪の種を、シーザの体へと植え付けた。

 矢部が手を離した瞬間、シーザは姿を変えた。

 ヴァルきちの時のように、醜い肉塊になったりはしなかった。変貌したのは鎧だ。

 竜騎士らしい竜騎士じみた鎧が、漆黒のそれに変貌していく。

「だいぶ強そうになったねカイル。これで邪魔な勇者もイチコロだね」

「もちろんだ」

 槍を捨て、漆黒の剣「デスブリンガー」を携え、竜騎士は魔竜騎士へと変貌を遂げたのだった。


 公園へ守人とラディすけの二人が行くと、ベンチにミサが座っていた。

「お、ヴァルきち、勇者の登場だよ」

 なんて言いながら、手を振ってくる。

「ようヴァルきち、ミサも元気か?」

「うん、元気だよ。おかげさまでヴァルきちも戻ったし。感謝しきれないよぉ」

「坂下さんも元気そうでよかったよ」

「それもこれも、二人のおかげだよ。ありがとう」

「よぉ天野ォ。チートバトルアーツも一緒かァ。バトルしようぜェ。バトルをよォ」

「鎌瀬くん。ハウンドβは元気になったの?」

「おかげさまァでなァ。坂下ァ。ほっといたらァ治ったァぜェ」

「それは鎌瀬君の介護の賜物だよ」

「そうかァ。天野ォ、お前ェいい事ォ言うなァ」

「カマセ、バトルしたいけどよ。でも先客が来たみたいだ」

「先客ゥ?」

 鎌瀬とミサは守人とラディすけが見ている方を見る。そこには矢部と黒いバトルアーツがいた。

「ヴァルきち、ちょっくら行ってくる」

「勝ってこいよ、ラディすけ」

 ラディすけは「ヘッ」と笑い、地面に降り立った。

「最後の戦いだ。ラディ」

「今度は魔龍騎士か、節操がなくなったなシーザ」

「いらないんだ。お前を殺せれば、他に何も」

 デスブリンガーを引き抜いたシーザに、ラディすけもクリスタルブレイドを引き抜く。

「ゼルトの剣は使わなくていいのか?」

「さあな」

「舐めたマネを。後悔するといい。あの世でな」

 両者は剣を構える。そして互いに向け走った。

 かつての友同士の戦いが再び始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る