第50話 前へ4

 別人だった。今までとは全く違う。バトルアーツとはおよそ呼べないような戦いが繰り広げられていた。

 ドラゴンと竜騎士の攻撃を全て捌いている。そこに自らの攻撃も加えている。ラディすけは遂に目覚めたのだ!

「く、勇者めコイツならどうだ!」

 シーザは呪文の詠唱を始める。

「食らえ! ダークネスバスター!」

 シーザが放った上位闇魔法は、絹ごし豆腐を包丁できるように簡単に切り裂かれた。

「シーザ……その前に!」

 ラディすけはファーブニルを見る。おじけづき、逃げ出そうかと一瞬考えたファーブニルだったが、ラディすけはすでに技を放つ体勢に入っていた。

「天に輝くは勇者の証。幾星霜を越え、我招来せしは聖なる力! 全てを切り開く神々の剣!」

 跳び上がると同時にラディすけは、いや、ゼルトの剣が大きな雷に打たれる!

「必殺! ヴァリアントバースト!」

 そしてファーブニルの背中にゼルトの剣を突き刺した。

 ファーブニルは苦しみ、倒れ、何かを吐き出す。

 それは意識を失ったヴァルきちだった。

 コアを失ったファーブニルは、体を維持できなくなり、そのまま霧散した。

 守人はヴァルきちを拾い上げる。

「ラディすけ。最後のシメだよ」

 それに答えるべくラディすけは、シーザに向かって歩いていく。

「終わりだシーザ」

「く、くそ!」

 シーザは槍をかまえラディすけに向かっていく。シーザは幾度となく突きを繰り出したが、全てラディすけに見切られてしまった。

 そしてラディすけの怒りの拳による一撃を食らったシーザは、槍を手放し二十センチメートルは吹っ飛び、機能停止寸前まで追い詰められていた。

 ラディすけは再びシーザに向け歩いていく。

「殺せ!」

 叫ぶシーザに対し、ラディすけは剣を突きつけた。が、ラディすけは剣を鞘に戻した。

「何故だ! 何故だラディ!」

「また、バトルしようぜ」

 そう言ってニヤリ笑い、ラディすけは守人の元へと帰っていった。

「いやぁいいバトルだったな」

「ホントだね。ヴァルきちも救い出せたし。万々歳だ」

 去りゆく背中に向け、シーザは叫ぶ。

「ラディ……、これで……勝ったと……思うなよー!」

 そこでシーザは矢部によって電源を切られた。

「まあ、いいっか。苦しむ顔は見れた」

 そして最終下校時間が来たので、矢部も校門から去ったのだった。



  エピローグ



 やはり通り雨だったようで、夜には月が光を放っていた。

「すまなかったなヴァルきち」

「私も油断しすぎた」

 そう言って、月下の元に二人は寄り添いあった。

 シーザの最後の言葉が気になるラディすけだったが、考えを改めた。

「どっからでも来いってんだ」

 月はただ光をたたえるだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る