第45話 憎悪の矛先3

 ヴァルきちは渾身の一撃をシーザに食らわせる。シーザはそれを槍で受け止めた。

 後方から駆けてくるラディすけに対して、シーザは片手を向ける。

「赤き精霊よ、我が前に集え! ファイアボール!」

 バトルアーツの手のひら大の火球が、ラディすけを襲う。しかし、ラディすけは火球を剣で跳ね飛ばした。

 驚いたのはシーザに振り払われたヴァルきちだった。ヴァルきちは思わず間合いを取る。

「今、ヤツが火球を!」

「ヴァルきち、アレは魔法だよ。気をつけて」

「「魔法?」」

 守人の声にミサとヴァルきちは思わず声をあげてしまった。

「そんなファンタジーなモノを」

 ミサに同意するヴァルきちではあったが、切り替え、シーザに向かっているラディすけに加勢した。

 ラディすけの一撃を、シーザは槍で受け止める。

 そこにヴァルきちの連続剣が襲いかかる!

 吹っ飛んだシーザではあったが、体勢を整えつつ着地しそのまま魔法を唱える。

「青き精霊よ、我が前に集え! アイスエッジ!」

 何本もの氷の刃が、二人を襲う! ラディすけはヴァルきちの前に立ち、襲いくる全てのアイスエッジを叩き落とした。

「すまない。面食らっていた」

「仕方ねえよ」

 ラディすけとヴァルきちは剣をかまえなおす。

「そろそろかね? カイル」

「もうちょっと楽しみたいが、腹八分目と言うしな」

 するとシーザは跳び上がった。

「跳び上がったところで!」

 ラディすけとヴァルきちはシーザに向かって跳び上がる。

 先に頂点に立ったシーザは、自らの後方に魔力障壁を作ってそれを蹴り、二人目掛け急降下してくる。

 シーザはラディすけの一撃をかわし、ヴァルきちを確保した!

「やめろ! 離せ!」

 ヴァルきちを下に、両者は地面に激突する。

 伸びてくる人間の手が。矢部の手だった。

「やれ高和!」

 矢部は暴れるヴァルきちをひょいと拾い上げ、ポケットからビー玉を取り出す。

「な、何をする気だ」

 矢部は手に持つ紫に輝くビー玉を嫌がるヴァルきちに埋め込む。

「ヴァルきち!」

 ラディすけはシーザに駆け寄る。

「テメエ、ヴァルきちに何をした!」

「憎悪の種」

 その一言で、ラディすけは全てを悟った。しかしまだ間に合うかもしれない。その一心でラディすけは全力のヴァリアントブレイクをヴァルきちめがけ放った。

 しかしそれは矢部によってかわされ、動かなくなったヴァルきちは放り投げられた。

「「ヴァルきち!」」

 悲鳴をあげたのはラディすけとミサだった。

「アレ? 失敗かな?」

「いや、そろそろだ高和」

「そうか」

 そして、ヴァルきちに変化が訪れた。それはあまりに絶望的で、誰も助けることは叶わなかった。

「ヴァ、ヴァルきち……」

 どんなことがあっても守ると誓った。しかしその誓いは、シーザの力尽くによって破られた。

 内側から変化していくヴァルきちの体は、もこもこと盛り上がっていく。一度、何かわからない、見るに耐えない肉塊になった後にはじけた。

 中から出てきたのは赤い鱗が印象的なドラゴンだった。大きさはラディすけの四倍ほどもある。全長を比較すればもっと違うだろう。

 ヴァルきちは火龍へと変貌したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る