第46話 憎悪の矛先4

 火龍へと変貌したヴァルきちは、矢部に向かって飛び上がり、その腕にとまる。

「よしよし、いい子だ」

 矢部は火龍を優しく撫でる。

「よしよしじゃないよ! 戻してよ! ヴァルきちを!」

 ミサの悲痛な叫びを、矢部は全く耳にしていない。

「名前を……そうだなファーブニルでいいか」

「いいかじゃない! 返してよ!」

「ファーブニル、その五月蝿い女を払え」

 火龍は一吠えすると、飛び上がり、ミサに襲いかかった。

「や、やめて! やめてよヴァルきち!」

「ヴァルきち!」

 叫んだラディすけの方をヴァルきちは見やる。そしてラディすけ向け急降下した。攻撃の対象をラディすけに変えたのだ。

 ミサは思わず尻もちをつき、ヴァルきちを見ていた。

  ラディすけは幾度となく攻撃される。その爪で、翼で、アギトで! それでもなんとかかわし、反撃しようとするもできなかった。出来るわけなかった。相手は変貌したとはいえヴァルきちなのだから。

 それに今使っている剣、「クリスタルブレイド」。この剣では強固なドラゴンの鱗は傷つけることはできないだろう。

「せめて……あの剣があれば……」

 かつての愛剣があれば。前世で魔王を討伐するときに使っていたあの装備があれば! そう思ってしまう。しかし無いものは無いのだ。

「やれるところまでやるか」

 ラディすけは覚悟を決め、ヴァルきちに、いや、ファーブニルへと向かっていく。

 一方で守人は、ミサを起こし矢部にかかっていく。

「ヴァルきちをすぐ戻せよ!」

「できないな」

 守人は矢部の襟首を掴み、「なんでこんなことをするんだ!」と食ってかかる。

「決まっているさ。娯楽だよ娯楽。ただおもしろいからやっているだけ」

 矢部のボディブローが守人にキマる。思わずその場に崩れる。矢部は笑いながら守人に蹴りをくれる。

「いいザマじゃないか。見たところあの青の剣士もファーブニルには勝てそうにないし。天野君、君も一緒に死んでみてはどうだい?」

 そして矢部は立ち上がろうとする守人の指を踏む。

「サンライトストラッシュ!」

 山吹色の閃光が、ファーブニルを襲った。

 ファーブニルの一撃からラディすけを助けた者がいた。

「おまえは、ガルム?」

 ガルムの頭上には、ヒロ太もいた。

 ガルムはファーブニルから間合いをとり、ラディすけとヒロ太をおろす。

「すまねえ二人とも」

「大丈夫だ。しかしあいつはなんだ?」

「時間がないから簡単に言う。アレは悲嘆の種を強化したものを埋め込まれ変貌した、ヴァルきちだ」

「そうか。貴様の仕業か、竜騎士!」

 シーザは矢部と同様にニヤニヤしてこちらを見ている。そんなシーザに三人は襲いかかる。しかしファーブニルの吐き出した火弾によってその行くては遮られた。

 シーザはファーブニルの背中に乗り、矢部の元へと帰っていく。

「いいタイミングだねカイル。そろそろ帰ろうかと思っていたんだ」

「高和、なかなかの手駒が手に入ったろ?」

「そうだね。ははは」

 そう笑いながら矢部とシーザはそのまま帰っていった。

「くっ」

 ラディすけは思わず膝を地につけた。

「ヴァル……き……ち」

 そこでラディすけはバッテリーが切れた。

 痛む手を抑えながらも、守人は立ち上がる。

「も、守人くん。ケガしているじゃないか。おい、チャン!」

 最後にやって来た麗一に抱えられ、守人はミサの元へいく。

「ゴメン。必ずヴァルきちは助けるから」

 そして守人は麗一とチャンさんに礼を言いつつ治療を断り、ラディすけを拾い上げると、家へと帰っていった。


 充電が終わり、目を覚ましたラディすけは暴れていた。

「ちくしょう、あの野郎! クソが!」

 汚い言葉で罵り、罵倒する。しかしそんなことで薄めないと、ラディすけの心は張り裂けそうだった。

 守人はただ見ているだけだった。しかし止める気もなかった。

「必ずだ。必ず助ける! 待ってろヴァルきち」

 散々暴れた後、ラディすけは強く強く誓ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る