第43話 憎悪の矛先1
「カイル、まだかかるかい?」
「いや、もうすぐできる」
シーザが錬金がまの底からすくいあげたものは、紫色に輝く不思議な球だった。
「できたぞ高和」
「なるほどこれが。コレで念願が叶うかな?」
「ああ、もちろんだ」
シーザと矢部は大きく笑うのだった。
1
ヒロ太がいた頃からなのだが、最近ヴァルきちがたまに守人の家に泊まりに来るようになっていた。
「もう僕は寝るからね」
「ああ、わかったよお休みモリト」
ヴァルきちは窓際に座っていた。ラディすけはその隣に腰をおろす。
「今日は特に月が綺麗だな」
「そうだな」
ヴァルきちは少し顔を赤くする。どこかで聞いたことがある。昔の人間は告白の気持ちを「月が綺麗ですね」と言い換えていたとかなんとか。
「星も瞬いている。素敵な夜だ」
そんなことを言ったヴァルきちも、ラディすけもしばらくボーッと夜空を眺めていた。
「いいなこういう時間」
ヴァルきちは首肯する。
「本当だな。何かこう、なんて言うのだろうな? 心が暖かな感じがする」
「今がずっと続けばいいのにな」
ヴァルきちはただ「ああ」というだけだった。
しばらく二人は黙って星空を眺めていた。
「ただ」
「どうしたラディすけ」
「ただ、隣に自分を想ってくれいている人がいる。それだけでどうしてこんなにも幸せなのか? ってな」
「センチメンタルだな」
ラディすけは「まあな」なんて笑顔で返す。
「まあ、そんなお前も好きだがな」
「ストレートだな」
「ラディすけは私のことが嫌いか?」
「んなわけねえだろ? 前世と今世合わせたってお前みたいなヤツはいねえよ」
「そうか」
「ああ、もちろんだ」
静かな夜は更けていく。聞こえるのは守人の寝息と、想い人同士のヒソヒソ話をする声だけだった。
月も星々も、そろそろ眠りにつこうかという時間になってきた。
「もうすぐ夜明けだな」
過ぎゆく時間を惜しむヴァルきちだった。
「ああ、今日も一日が始まるなぁ」
ラディすけはうーんと伸びをする。
「あとちょっとでモリトを起こさねえとな」
「私もミサを……って、今日は違うんだった」
二人は笑い合い、窓の縁から立ち上がる。
「一日が始まるな」
「おいヴァルきち」
「なんだ?」
「愛してるぞ」
「フッ、私もだ」
そして月の時間は終わり、太陽が顔を出したのだった。
守人を起こした二人は、モーニングルーティンを済まさせ、三人で学校へと向かった。
席についた守人は思わず口を開いた。
「矢部君今日も休みだね」
「そうみてえだな」
ラディすけはふっとシーザのことを考える。またよからぬことを考えているのだろうか? しかし、シーザに限ってと思いたい気持ちもあるが、ヒロ太の一件もある。ホントにアレはシーザの本心からの行動だったのか? わからない。直接ちゃんと話をする必要がありそうだった。しかし今はシーザは居ない。マスターの矢部もいない。本当にどこで何をしているのだろうか? ラディすけは少し心配になってきた。なんとも形容し難い不安感だった。
そんな中でもラディすけは、ヴァルきちと守人とともに授業を受けたのだった。
算術の勉強をしたり、この国の文学の勉強をしたり、生物の観察をしたり。守人くらいの年齢で勉学が出来るということは、幸せなことだ。そうラディすけは噛み締めていた。
しみじみ思う。この国に、守人のところに転生できて自分は幸せ者だと。
差し当たって、ラディすけはしっかりと勉強しよう。そう思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます