第40話 朝日の時2

 やはりそこは大きなお屋敷だった。

 守人は大きく息を吸い、吐いた。

「行こう! ラディすけ」

「おうよ」

 守人は勇気を出し、インターフォンのボタンを押す。

「すいません。僕天野守人といいます。麗一くんいますか?」

「麗一坊ちゃんのご学友ですか?」

「いえ、そういうわけではないんですけど、バトルアーツのことで少しお話があって」

「……少々お待ちください」

 ドアが開くまで少し待つ。そして男が現れた。

「ハーイ。チャンさんよー」

 謎のチャイニーズこと、チャンさんは守人の顔をじっとみる。

「ああ、ヒロ太を持ち去った子ネ。どしたノ?」

「あの……成り行きで、ヒロ太が壊れちゃって」

「アラー。大変ネ」

「この通りです。ヒロ太を治してください」

 守人は頭を下げる。

「どうしよっかナー。チャンさんチョトダケ頭悪いから、決められないヨ」

「おい、チャン。どうした?」

 後方の大きな階段から降りてくるヤツがいた。

「麗一くん」

「なんだっけ? ブタのケツ君だっけ?」

「天野守人です」

「そうだっけ? まあいいや。何のようだ?」

 守人は事情を説明する。

「……あがれよ」

「麗一坊ちゃん、いいノ?」

「かまわん」

「ごめんなさい。お邪魔します」

 守人は一礼し、チャンさんの隣を通っていく。チャンさんはニヤつきながら腕を組み、守人が屋敷の中へ入るのを確認すると大きな扉を閉めた。

 守人とラディすけは麗一の部屋へと通された。

 そこはヒロ太がガルムと死闘を繰り広げた場所なのだが、守人とラディすけは知るよしもなかった。

「守人君。だっけ? ヒロ太を見せてくれよ」

「はい」

 守人は電源を入れていないヒロ太を麗一に見せる。すると麗一はヒロ太をひったくり、チャンさんに渡す。

「チャン、治しておけ。どれくらいかかる?」

「そうね、十五分ネ」

「十五分? 十分でやるんだ!」

「そんなに早くできるかナ? 核爆弾の解除コードも無いネ」

 するとチャンさんは部屋の外へと出ていった。麗一はそれを見てフン! と鼻を鳴らす。

「すぐ治るんだね」

「チャンはああ見えて優秀だからな。そう言ったら言ったでつけあがるが」

 王を讃えよと言わんばかりに、尊大な座り方をしている麗一と守人の間にビミョーな空気が流れる。

 時計の秒針が十回動くまでに、一時間は経った気がしていた。

「守人君」

「はい」

「……まあいいや。キミは……うん」

 麗一は何か歯に物が詰まったような喋り方をする。守人は頭に「?」を浮かべるばかりだった。

「おい、言いたいことがあるならちゃんと言いやがれ!」

「ラディすけ!」

「バトル……そう、バトルをしないか?」

「このオレとか?」

「ああ、この……」

 麗一は少しオドオドしながら棚の上の電源が入っていないバトルアーツを指さす。

「チャンさんやたヨー! 五分で仕上げたヨ!」

 扉を蹴破るようにチャンさんが部屋の中に入ってくる。チャンさんの手には、電源を入れられ目を覚ました仏頂面のヒロ太がいた。

「ありがとうございます。ヒロ太、帰ろう」

 麗一は横を通り過ぎようとする守人の手を掴み、通行を妨害した。

「何?」

「あ、いや……何でも……」

「麗一、言いたいことがあるならハッキリと言え」

 ヒロ太に一括された麗一の口からは、意外な言葉が出てきた。

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