第39話 朝日の時1

 プロローグ



 先日の一件以来、ヒロ太は再びマントをするようになった。

 無い右手を隠すためだ。

 ヒロ太はちょくちょく右肩を押さえていた。

 痛むのだ。無い右手が。冷たいのだ。無い右手が。

 マントを着ければ少し違うかな? そう考えたが、大した違いはなかった。

 しかしこれはこれでカッコいいな。そんなことを鏡を見ながらヒロ太は考えていた。 



    1




「つまりは、ヒロ太の右手を治そうってことだ」

 ラディすけの口から端的に言うとそうだった。

 悲嘆の種の影響は右手を斬り落としたことで切り離されたようだった。しかし、このままではバランスが悪い。バトルも不利だし、何よりヒロ太が漫画を読めない。

 「ドラゴン玉」の続きが読めない。ヒロ太にとってそれは死活問題であり、なんとしても避けたい事態だった。

「守人、なんとかならんか?」

「うーん、電子書籍で読むというのも手だけど……。でも家にあるの紙のマンガだからなあ」

「超ヤサイ人にパワーアップして、これから敵を倒すいいところなんだ!」

 力がこもっていた。

「なんか、相談できるヤツいねえかなあ?」

 守人はラディすけの言葉を聞き、すぐに支度を始めた。

「おいおい、どうしたんだよ急に」

「いくところがある。二人とも付いてきてくれない?」

 守人が二人を連れて駆けていった場所は、守人の家からほど近い別の家だった。

 守人はチャイムを鳴らす。

「こんにちは」

「おお、守人か。どうした?」

 出てきたのは、近所の受験生の太陽だった。バトルアーツの腕前は相当なもので、日本ランカーになったこともある。らしい。

「お願いがあって……」

「ま、入れよ」

 太陽は守人を家の中に入れる。

「おじゃまします」

 守人は太陽の部屋に通され、出された座布団の上に座る。

「で? お願いって?」

「うん、実は……バトルアーツのフレームを借りたいんだ」

「フレーム?」

 守人は首肯する。

「実は……ヒロ太がこんな状態なんだ」

守人はヒロ太のマントを指先でつまんでチラリとめくってみる。

「守人、そのめくり方はいやらしい」

「ご、ゴメンヒロ太」

「なるほど。右手だけ無くなったのか」

「そうなんだ。修理費用が貯まるまでその、フレームを貸して欲しいんだけど……」

 太陽は「うーん」と両腕を組んで唸る。

「仕方ねえな。ただし、オレの受験が終わるまでにはガンバって貯めるんだぞ?」

「ありがとう太陽兄ちゃん」

「恩にきる」

 守人とヒロ太は一言付け、ラディすけはそのまま頭を下げる。

「ここで付け替えていっちゃえよ」

「わかったよ太陽兄ちゃん」

 と、守人はヒロ太の電源を切る。シャットダウンが完了した後、守人はヒロ太の外装をバラしていく。

 メモリーカードを抜いたのち、太陽の貸してくれたフレームに差し込む。

「おい、ちょっと待て。守人、そのフレームを見せてみろ」

 訳もわからず守人は太陽にヒロ太の元々のフレームを渡す。

「コイツは……」

「どうしたの?」

「コイツはよく出来てる。でもバトルアーツの改造品……いや、海賊版だな」

「ありったけの夢をかき集めるような?」

「ノルドの男か?」

 守人とラディすけの質問に太陽は少し困ったように答える。

「違う違う。二人とも違う。赤いやつ、ヒロ太だっけ? のフレーム。違法改造してあるんだよ。だから、もしかしたら、外装がフレームに合わないかも?」

 守人は太陽のフレームに左手の外装をはめ込んでみる。確かにうまくはハマらない。

「ほらな? ダメダメ。力でどうこうできる問題じゃ無いんだ」

「えー!」

「がーんだな……」

「守人、こいつを元通り戻したかったら、このフレームを作ったやつに言わないとダメだ」

「そうなんだ……ありがとう太陽兄ちゃん」

 守人はヒロ太を元の状態に戻した。

 右手のないヒロ太は、なんだか安らかに眠っているように見えた。

「すまねえな。力になれなくて」

 守人はよくお礼を言い、太陽の家を後にした。

「モリト」

「うん。あまり気が進まないけど行くしかないね」

 守人とラディすけはヒロ太の元々の持ち主の居場所に向かった。

 そう、麗一坊ちゃんのいる早見家に向かったのだ。

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