第30話 ヒロ太の空3

 ヒロ太が目を覚ますと、そこにはこちらを見てほくそ笑んでいる麗一と、同じくニヤついているチャンさんがいた。

「さあヒロ太、今日も楽しいバトルの時間だぞ」

 麗一の足元で唸り声をあげているのは、巨大な狼型のバトルアーツだった。大きさはチワワくらいもある。ヒロ太三人分あるのではないか? そこまでの巨大さだった。

「いけガルム!」

 ヒロ太は剣を引き抜き、ガルムに向かっていく。ヒロ太にもわかっているのだ。守ったら殺される。攻めるしかない。

 ヒロ太はガルムの頭に剣を叩きつける。吹っ飛ばされたのはヒロ太の方だった。

「ガルムがそんなハンパな攻撃で倒せるワケねえだろ! ガルム、そのクソッタレにわからせてやれ! 二度とここから逃げだそうなんて考えないようにな」

 ガルムは呼応するように一吠えし、再びヒロ太に向かっていく。

 ヒロ太はガルムに向かって駆ける。今度は脚部を狙った。しかしガルムの装甲のなんと硬いことか。麗一のことだから、何かしらのチートをしているのだろう。

 ヒロ太は心の中で舌打ちしながらその場を離れる。

 次の瞬間にはガルムのもう一方の前足がヒロ太のいたところを薙いでいた。

 ヒロ太は納得する。

「なるほど、普通の攻撃ではダメか」

 ヒロ太は剣を構え、力をためる。

「超必殺、サンライトストラッシュ!」

 それは魔王と戦った時使った、ヒロ太の超必殺技。

 オレンジの輝きを帯びたヒロ太の剣は、ガルムの脳天に叩きつけられた。

 しかしガルムにはサンライトストラッシュでもダメージを与えられなかった。身に纏っているフレームが違うとはいえ、魔王の両腕を潰したこの技をくらって無傷とは。

「プライドズタズタだな」

 そんなことを考えながらも、ヒロ太はとりあずその場から離れる。

 ガルムは前足で頭をかいている。さすがに痛かったは痛かったらしい。だがその程度だった。

「ここまで……か」

 一瞬諦めそうになる。しかし守人とラディすけの顔がヒロ太の脳裏によぎった。

「諦めて……たまるか!」

 ヒロ太の剣に力が戻る。しかしチートで強化されたガルムと通常機体のヒロ太との間には、絶望的なまでの差がある。

 そもそもガルム程の大型バトルアーツは通常機体三体でバトルするのが公式ルールなのだ。しかし今のヒロ太に、その力はない。せめて不死鳥の鎧を身につけていたら。そう思ってしまう。

「フッ」

 思わず笑ってしまった。ないモノねだりしてもはじまらない。ヒロ太は通常技の、連続剣をガルムに当てる。しかし当然効果はなく、ついにヒロ太は文字通りガルム歯牙にかかった。

 そこからのヒロ太の戦いは凄惨なモノだった。

 一方的な暴力に、なすすべなくヒロ太はやられていった。

「よし、いいぞガルム! そのままぶっ壊しちやえ!」

 ガルムは倒れているヒロ太を口ですくい上げる。そのアギトで噛み砕くつもりだ。

「こんな……ところで、やられてる場合か!」

 ヒロ太が叫んだその時だった。ヒロ太の右手が輝き出したのだ。暖かな太陽の色だった。それは徐々に強くなっていく。

「なろほど、そういうことか」

 何かに気づいたヒロ太は、大きく笑った。

「イカレちまったらしいな。よし、ガルム! ぶっ壊せ!」

 ヒロ太は自らに噛み付いているガルムの下顎に肘と膝で攻撃を加える。そのあまりの衝撃に、ガルムは思わずヒロ太を離す。

「いやはや全くすげえすげえ。コレか。コレがそうなのか」

「おい! ガルムどうした! なんで戦わねえんだよ!」

 麗一はガルムにヒロ太を攻撃しろと騒ぎ立てる。

 ガルムは再びヒロ太に攻撃を仕掛ける。ヒロ太は輝く右手でガルムを殴る。

 カマセ犬が噛みつかれたような声をあげ、ガルムは部屋の隅に逃げていった。

「チャン! ヤツを止めるんだ」

「ハイハーイ」

 チャンさんは懐から五体のバトルアーツを同時に出した。

 ヒロ太はそのバトルアーツらをの攻撃を通り抜け、チャンさんに一撃食らわせた。

 ヒロ太の一撃を顔面にくらったチャンさんは、思わずその場を転げ回る。

「ひ、ヒロ太。ごめん謝るよ。だからそんな目でボクを見るなよ。そうだ。外にまた出してあげるよだからやめて! やめてとめてやめてとめて」

 ヒロ太は麗一の顔面に一撃を食らわせた。

「俺は二人の元へ帰る! これ以上干渉するな!」

 昏倒した麗一を尻目に、ヒロたは部屋のドアをぶち壊して外へと出た。

「フン」

 鼻息荒くヒロ太は屋敷の外へと出ていった。


「どうするよモリト、今日も門前払いだと思うぞ? やっぱオレが忍び込んで……」

「ダメだよ。それじゃドロボウになっちゃうよ」

 二人は門の前で相談をしていた。

「何してんだお前ら」

 不思議そうな顔で見上げているのは……。

「「ヒロ太!」」

「大丈夫? ケガしてない?」

「よし、オレがアイツらに一発ブチかまして……」

「必要ない」

 そしてヒロ太は守人の肩に乗る。

「帰ろう。漫画が待っている」

「なんだそら?」

「なんだかわからないけど、すぐ帰ろうねヒロ太」

 ヒロ太はうなずき空を見上げる。

「今日はこんなにもいい天気だったんだな」



      エピローグ



 麗一の住む屋敷の向かい、屋根の上から三人を見ているヤツがいた。

「よかったよかった。さすがは勇者ラディ」

 槍を片手に座り込み、拍手なんかしている。

「さすがに運だけは特別だな」

 そして駆けていく守人たちを見やりながら一言だった。

「今度はどんな実がなるかな?」

 竜騎士は跳び、矢部家へと帰っていった。

 その笑みは何を意味するのだろうか?

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