第29話 ヒロ太の空2

 ヒロ太が目を覚ますと、そこはよく見知った場所だった。

「ようやく戻ったねヒロ太」

 嫌な声だった。ねっとりとした、それでいて愛情のかけらもないようなそんな声。そんなヤツの手の中にいる。ヘドが出そうだった。

「麗一か、久しぶりだな」

 麗一はヒロ太を地面に叩きつける。

「麗一坊ちゃん、だろ? ヒロ太」

 ヒロ太は辺りを見回す。「マズイな退路がない」そんなことを考えながらきしむ体をなんとか起こす。

「さあ、ヒロ太。君の復帰セレモニーだ。存分に戦ってくれ」

 そして、麗一はバトルアーツを五体取り出した。

 五体のバトルアーツはヒロ太にさっそく襲いかかってくる。ヒロ太は剣を引き抜いた。

 五体のバトルアーツの必死な攻撃をヒロ太はかわし、いなす。ヒロ太は知っているのだ。自分がこのバトルアーツらを倒してしまったその後のことを。

 簡単なことだった。バトルアーツはゴミ箱行きだろう。そう、捨てられるのだ。

 麗一は金持ちだ。モノに執着しない。だから簡単に捨てる。電子的な生命とはいえ、バトルアーツも命。それを簡単に切り捨てる。麗一はそんなヤツだった。

「ハッハッハ。やるじゃないかヒロ太。さすがワーグを倒した片割れ」

 その言葉に一瞬気を取られ、ヒロ太は攻撃を受ける。しかしすぐ体勢を整え、バトルアーツたちの攻撃を再びかわしだした。

「なんで知ってるかって? 高和君に聞いたのさ。日本ランカーで、友だちの矢部高和君にね!」

 麗一は高らかに笑う。

「あの事件を解決したのが、ボクのバトルアーツだったとはね。正直驚いたよ。でもさ、ダメだよ。そんな力があるなら、ボクを喜ばせないと! お前にはその義務があるんだよ!」

 ヒロ太は舌打ちする。そろそろバッテリーの限界が近い。さすがに五体一をずっと続けるわけにもいかない。

「必殺! サンライトスラッシャー!」

 ヒロ太は思わず電池消費量の高い必殺技で応戦してしまった。

 三体のバトルアーツをサンライトスラッシャーで倒してしまった。

 飛んでいったバトルアーツの一体が、麗一の足元に転がる。麗一はそのバトルアーツを踏みにじった。

「ヒャハハハ、やるなあヒロ太。それなら三体追加だ」

 麗一は更に三体のバトルアーツを追加し、彼らにヒロ太を襲わせた。

 ヒートアップしてきた麗一は、はしゃいで踊っている。

 その間ヒロ太は戦い続けた。しかしそろそろ本当に限界が来たようだ。あと、五分としない内に、バッテリーが切れるだろう。

「やれ! とどめをさせ!」

 足元のバトルアーツを強く踏みつけながら、麗一はハッスルしていく。

 ヒロ太は最後の力を使い、サンライトスラッシャーを放つ。

 今度は五体まとめて倒すことができた。

「やるなあヒロ太……ってあれ?」

 ヒロ太は動かなかった。バッテリーが切れたのだ。

 麗一はヒロたに近づき、ヒロ太を蹴り上げた。ヒロ太の体は宙を舞いその後地面に叩きつけられる。しかし受け身なんて取れなかった。当然だ。バッテリーが切れているのだから。

「おい、チャン!」

 呼ばれたチャンさんが扉を開けて登場する。

「ハーイ、チャンさんヨ」

「そこのクソッタレを充電しとけ」

「ハイハーイ」

 麗一は「ハイは一回」なんて言いつつ、部屋を後にした。そしてチャンはヒロ太の電源ボタンを切ってから、充電ケーブルを差し込み、そのまま放置したのだった。

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