第28話 ヒロ太の空1

プロローグ



 マンガはいい。

 純粋に楽しいし、嫌なことを忘れさせてくれる。

 過去あったおぞましい出来事を思い出し、ヒロ太は体を震わせる。

 ヒロ太はマンガを再び読む。また過去の嫌なことを思い出さないよう、心にフタをするようにマンガに没頭する。

 楽しい。それに今は守人やラディすけがいる。この時間がいつまでも続けばいいな。そう思いながらヒロ太は窓の外を見る。

 鳥の子は空を飛び、魚の子も川を泳いでいる。今日も一日、いいことがあるといいな。そんな感慨にふけっていた。



     1



 ここのところ公園は盛況だった、バトルアーツでバトルをする者、そのバトルを見ている者、全く関係なくピクニックを楽しむ者。各自の様々な目的で公園には多くの人が来ていた。

 もちろん守人やヒロ太、ラディすけもその中に含まれるのだった。

「今日もいっぱいだな」

 うへえなんて嘆息しながらも、やる気に満ち溢れているラディすけは誰とバトルするかよく見定めている。

「でも、今日はヒロ太からだね」

 バトルの順番のことである。昨日はラディすけがバトルを最後にしたので、ヒロ太の番であるということだった。

「ああ、腕がなる」

 ヒロ太は左肩を回しながらやる気満々といった具合だった。

 そして守人はそこにいた少年に声をかけた。

「キミ一人? バトルアーツ持っているならバトルしない?」

 少年は快く守人の提案を受け、ヒロ太のバトルが始まった。


「あー、負けたぁ」

 悔しがる少年に、守人は「いい勝負だった。ありがとう」と、声をかけた。

 少年は「今度は負けない」そういった旨のことを言い残し、その場を後にした。

「さあて、次は俺の番だな」

 ラディすけは次の対戦相手を探す。

 ヒロ太は守人の肩へと戻り、次の対戦相手を探していた。

 すると、守人の横からヒロ太を掴む手が。

「え?」

 守人は思わず振り向く。そこにはいかにも成金の子どもといった感じの、頭の悪そうなヤツがいた。

「ようやく見つけた。さあ、帰るよヒロ太」

 頭の悪そうな少年は、くるりと公園の外へと止まっている車の元へと歩いていく。

「なんだテメエ! ヒロ太に何しやがる」

「僕のヒロ太になにするんだよ!」

 頭の悪そうな少年は守人に振り返り、一言だった。

「このバトルアーツは前からボクのモノだぞ!」

 すると少年は、執事のチャンにアゴで命じる。

「わかったヨ。麗一坊ちゃん」

 チャンは何体かのバトルアーツを取り出し、ラディすけに当てた。そして自らは守人の手を掴んで動きを封じた。

「ヒロ太を預かってくれてありがとう。さよなら」

 麗一坊ちゃんは暴れようとするヒロ太の電源を切り、公園の外に止めてあった車に乗り込み、車を発進させた。

「麗一坊ちゃんヒドイヨ! チャンさん置いていくなんて!」

 チャンさんは守人を掴む手を離す。

「あーあ行っちゃったヨ。チャンさん歩いて帰らないといけない」

 心底残念そうにチャンさんはバトルアーツたちを回収し、そのまま帰ろうとする。

「おいテメエー! アイツは一体何なんだ!」

「ヒロ太を返してよ」

「ヒロ太を返すのはキミたちの方ヨ。元々あのバトルアーツは、中華料理の一大チェーン店「満珍軒」の御曹司、麗一坊ちゃんのもの」

 そこで守人はハッと気づく。そうだった。ヒロ太は元々ノラのバトルアーツだった。ならば、元の持ち主がいてもおかしくはない。というか、持ち主がいることが自然だ。ラディすけは苦虫を噛み潰したような顔をする。

「そういうことネ。コレは今までヒロ太を預かってくれたお礼ネ」

 チャンさんはポチ袋を守人へと渡し、スタコラサッサと帰っていった。

「テメエ! 待ちやがれ!」

 ラディすけはチャンさんに襲い掛かろうとする。

「行こうラディすけ」

 チャンさんに飛びかかるのをやめたラディすけは、守人の肩をしっかりと掴む。守人はチャンさんを追って走り出した。

 守人は一瞬思った。ヒロ太はあの麗一とかいう少年に返さなくてはいけないのでは? しかしかぶりを振るった。ヒロ太は麗一の家を逃げ出したのだ。そんなに嫌な環境だったのだ。

 だから助けないといけない。それを深く思い出していた。

「ヒロ太、必ず助けるからね」

 守人はそう心に強く誓ったのだった。

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