第27話 龍の鼓動3

 待ちに待った放課後となった。コレから一体何をしようか? そんな相談をしながら帰路についていた。

「天野君」

 皆が出て行った後の教室で、ランドセルを背負おうとしていた守人を呼んだのは、唯一残っていた転校生の矢部だった。

「どうしたの?」

 矢部の提案は単純明快だった。

「もう一度バトルしないかい?」

「別に構わないよ」

 ヒロ太に目をやる。しかしヒロ太は不審なものを見ているような目をしている。何かを怪しんでいるような、そんな顔をしていた。

「ヒロ太?」

 無言のヒロ太が出ていくのを躊躇している間に、もう一人の青い剣士がマフラーをたなびかせながら机の上へと降り立った。

「ヒロ太が出ねえならオレがやってやる!」

 ラディすけは剣を引き抜き、ゆっくりと歩いてくるカイルを挑発する。

「ヘッ、所詮はタフなだけだろ?」

 ラディすけは駆けた。しかしそのスピードは、いつもの三分の二程度だった。

「ラディすけ、大丈夫かな?」

 ヒロ太は無言だった。無言でカイルをじっと見ていた。

 守人はラディすけに指示を出す。

「突きが来るよ。避けて!」

 ラディすけはカイルの突きを左にそれてかわす。すれ違いざまカイルの胴に剣を叩きつけた!

 しかしカイルはすぐさま立ち上がり、ラディすけに向かって駆けた。

「なんだ? 今の攻撃は。蚊ほども効かないぞ!」

 ヒロ太はそのセリフに何か反応を示したが、そんなことは今はどうでもよかった。

「ラディすけ! がんばれ!」

 防戦一方のラディすけだが、カイルから少し間合いをとった。

「ヘッ、しゃあねえな……モリトにそう言われちゃな!」

 ラディすけは突進してくるカイルに向け剣をかまえ、カイルを迎撃する。

 カイルは槍を何度も突きだすが、ラディすけにかわされてしまう。それもなんとかかんとかと言った具合ではあるが。

 ラディすけはカイルの突きをかわした。するとカイルは、一瞬ラディすけの視界から消えた。

 その場にいた全員。いや、矢部を除いた全員が、その速度に一瞬目を奪われた。

「テメエ、今まで手加減していたのか!」

 そう言いたかったであろうラディすけだったが、そのヒマもなくカイルはラディすけの胸部に手を軽く当てる。

「フン!」

 カイルは何かを放出した。

「アレは!」

 この中で見たことがあるのはヒロ太だけだった。そう、それは魔力。魔王が最後に使った、魔力放出を弱体化しているラディすけに向かって放ったのだ。

 ラディすけは吹っ飛ばされ、机の端に倒れる。

 ラディすけが聞いたのは、守人とヒロ太が自分を案ずる声と、どこかで聞いたことのある大きな笑い声だった。


 ラディはボロボロになりながらも、最後の一撃を魔王に食らわせた!

「この魔王が消えるか、これは面倒なことに、なった……」

 そして魔王はこの世界から消えた。

 ラディの限界はとっくに超えていた。息も絶え絶え、死にそうなほど疲れた。どこかの定食屋で食べた、ポークカツレツ甘辛たまごとじのせ丼を食べたい。そんな気分だった。

 足音がする。ようやく追いついたのは、仲間の魔法使いシーザだった。

「倒したか」

「あ、ああ」

 するとシーザは背後からナイフを取り出し、動けないラディの首筋に赤い線を描いたのだ。

「悪いな。王命だ。魔王より強大な力を持つ貴様を殺せとさ」

 流血が止まらなかった。回復魔法を唱える余力も残っていない。待つのは死だった。

「泣くなよシーザ」

 五歳の頃からのともだち、シーザにそう言ってラディは目を閉じた。

 そんな昔のことを思い出した。


 そうだった。オレはコイツに殺されたんだ。一発殴ってやりたいが、もう全身に力が入らない。ああ、ダメだなこりゃ。また死ぬか。地獄でも天国でも好きな方に行くかな。

「おい」

 誰だよ。

「いいのか? そんなことで。らしくねえぞ」

 ああ、アンタか。でもな、オレはもういいんだ。

「お前自分自身で言ったろ? 『諦めないのが勇者だ。だからオレは諦めない』ってよ」

 そんなこともあったな。

「お前、勇者になるんだろ? だったら諦めちゃダメだ。生きることをよ」

 そうだったな。そうだ。こんなところで……。


「諦めて……たまるか!」

 ラディすけは剣を杖にして立ち上がる。

「ほう、さすがザーム王国救国の勇者。再び立ち上がるか」

 ラディすけは向かってくるカイルの突きを紙一重でかわしていく。

「ラディすけ!」

「大丈夫だ守人。戻った」

 守人はヒロ太を見やる。ヒロ太は「ようやく目を覚ましたか」そんなことをボソリつぶやく。

 ラディすけは剣を薙ぎ、カイルを吹き飛ばして間合いを作る。

「行くぜ……必殺!」

 ラディすけは天に剣を掲げる。そして剣の上に雷を落とした。その剣を肩の位置でかまえる。

「ならばこちらも本気で行くか」

 カイルは槍を捨て、両手のひらを合わせてラディすけに向ける。

「食らえラディ! 我が大魔法!」

「ヴァリアントブレイク!」

「カイゼルフェニックス!」

 ラディすけは、カイルのカイゼルフェニックスを切り裂き、そのままカイルに剣叩きつけた。

 カイルは吹き飛び、矢部の元に落ちた。

「あーあ、負けちゃった」

 それだけ残して、矢部は帰っていく。もちろんカイルの槍を拾って。

 ラディすけは膝をつき、もう立ち上がれないといった具合に疲弊していた。

「シーザ、お前、シーザなんだろ?」

 青い剣士は竜騎士に向かって叫ぶ。

「オレたち今でも友だちだよな! そうだよな!」

 矢部はそんなラディすけの顔を見て、口角を上げた。そしてそのまま帰宅の途についた。



    エピローグ



 学校からの帰り道、ラディすけは無言だった。

「でもよかったよ」

 口火を切ったのは守人だった。

「ラディすけの調子が元に戻って」

 沈痛な面持ちで、三者は家に着いた。

「なあ、モリト」

「何?」

 すると、ラディすけは「また今度にする」そう言ってまた黙った。

 守人はただ、「やるせないなあ」と思ったのだった。

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