第26話 龍の鼓動 2

 その日、守人のクラスはザワめいていた。

「転校生を紹介する」

 教師は「入ってください」と、そいつを教室内へ呼んだ。

 入ってきた男子生徒の肩には、黒い竜騎士タイプのバトルアーツが乗っていた。教師は男子生徒に自己紹介を促す。

「矢部高和です。こっちは相棒のカイル。ヨロシクお願いします」

 教室中からやる気のない拍手が巻き起こる。

「では矢部君はそこの、天野君の隣に座って」

 矢部はつかつかと歩いてきて、守人に対し「よろしくね」と挨拶する。

「こっちこそよろしくね」

 そして授業が始まった。


「えっと、天野君だっけ?」

 チャイムが鳴り、次の時間に使う教科書を出していた時の話だった。

「うん」

「バトルしない?」

 今は二限目と三限目の間の二十分休み。バトル一回ならできないこともない。

「で、でもさあ」

「おいィ、天野ォ。転校生がァそう言ってんだからよォ、付き合ってやれよォ」

「鎌瀬君……。わかったよ。ヒロ太、やれるかい?」

「もちろんだ。北斗神剣は無敵だからな」

 守人は思わず「何それ?」と聞いてしまう。そういえば、そんな世紀末な救世の剣士が活躍するマンガをヒロ太は読んでいたっけなあ。

「カイル」

 名前を呼ばれた矢部のバトルアーツは、すでに机の上に乗っていた。

「なんだなんだ?」

「天野と転校生がバトルだってさ」

「コイツは見ものだな」

 いつの間にか人がきができていた。

「じゃあァ行くぞォ。レディィ……ゴーォ!」

「ヒロ太、足元に注意してね。落ちたら負けだよ」

「もう一度言う。北斗神剣は無敵だ」

 剣を引き抜くヒロ太に対して、カイルは槍をかまえる。竜騎士らしい、竜騎士じみたかまえだった。

 気合をかけたカイルは、跳び上がった。竜騎士お得意の空中戦を仕掛けてきた。

「セオリー通りだな」

 ヒロ太はカイルが着地するギリギリでジャンプ攻撃を紙一重でかわし、カイルに拳をぶち当てる。

 カイルは一瞬よろける。そのスキをヒロ太が見逃すハズがなかった。

「ホォーッ! アタタタタタタタタタタタタタタタァ! オワッタァ!」

 奇声と共に連続で剣を叩きつける。最後に強烈な一撃を叩きつけ、ヒロ太の完勝。かに見えた。

「なかなかやるじゃないか」

 かなりダメージはくらっていたものの、カイルは健在だった。

「チッ、真面目に戦うか」

 ヒロ太は剣をかまえ直す。そしてカイル向け駆けた。

 気合とともに、上段から剣の一撃を叩き込む。

 カイルは槍でそれを受け止める。しかし攻撃がかなり重かったようだ。カイルは思わずバランスを崩しそうになる。そのスキを見逃さず、ヒロ太はカイルを蹴り飛ばす。

「一方的な展開だな」

「おい転校生! もっとがんばれ!」

「そうだぞォ。二人ともがんばれよォ」

 周囲がワーギャー言い出し、騒がしくなってきた。

 カイルは体勢を立て直し、必殺技を放つ。

「必殺、ドラゴンスピア!」

 カイルは飛び上がり、高速で槍を投げた!

「必殺、サンライトスラッシャー!」

 ヒロ太もそれに必殺技で応戦する。ヒロ太の放った強力な斬撃が、飛んでくる槍を吹き飛ばし、カイルをも吹き飛ばしたのだ。

 誰もがヒロ太の勝利を確信した。しかしその場にいた、矢部以外の者全てがその目を疑った。

 それでもカイルは立ち上がったのだ。

「なかなかやるじゃないか。それなりにだが」

 カイルは拾った槍をかまえなおす。ヒロ太はこの事態に明らかな違和感を感じていた。

 体力値が減らないチートをしている? 真っ先にヒロ太が考えたのはそれだったが、矢部の顔を見ると、そんな顔をしていない。しかし、目の前で戦っている竜騎士に絶対の自信を持っている。信奉と言ってもいいかもしれない。

 なんだ? 何だこれは? そしてヒロ太は同時に既視感にも襲われていた。この強さ、何かどこかであったような?

 しかし考えても始まらない。赤い剣士は竜騎士に向かって駆ける。

 気合の一撃からの連続剣。カイルもそれに応戦する。

 その時だった。

 チャイムが鳴ったのだ。二十分休み終了のお知らせだった。

 戦っていた二人は間合いを取る。

「なかなかいい戦いだった」

 ヒロ太は剣をしまう。そして握手を求める。

「次は決着を」

 カイルはその手を固く握った。

「ああ」

 その場はそれでお流れになった。

「なあ守人」

 守人は「どうしたの?」と、ヒロ太を自分の机にやさしく置きながら聞く。

「いや……すまないなんでもない。気のせいだったみたいだ」

「変なヒロ太」

 ヒロ太はしばらく考えていた。そしてその視線の先には、先ほど戦った竜騎士がヒソヒソとマスターと話していた。

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