それぞれの思い

第25話 龍の鼓動1

 ラディすけは「ちょっと違うんじゃねえか?」と、守人の宿題に口を出す。

「えー? どこが?」

「ここだよここ。ここ間違えやすいって先生も言っていたぜ?」

 守人はそれをみて、「あっそうか」と、納得する。そして消しゴムを取り出し、もう一度計算をする。

「そうそう、そうだよ」

「これで良さそうだね」

 ラディすけは首肯する。宿題をやっている二人の一方で、ヒロ太はというとどっしりと地面に床に腰を下ろしてマンガを読んでいた。曰く「バトルの練習」らしい。しかしマンガでバトルの練習になるかは疑問なのであった。



      1



 ようやく宿題を終えた、ごく普通の小学五年生「天野守人」は、自らの手のひら大のフィギュア、バトルアーツ二体を連れ公園へ向かった。

「ようやくバトルできるぜ」

 うーんと、伸びをするのは青い鎧に青いマフラー姿のラディすけだ。

 一方で、赤い鎧を身につけた剣士、ヒロ太は何かブツブツ言っている。

「こう……いや、こうか」

 剣の型だろうか? 練習に余念がない感じだ。

「お、ヒロ太ヤル気じゃねえか」

「新しい剣技を試したくてな。でもまだ完成ではない」

 なんて話している内に、三人は公園へとたどり着いた。

「だれかいるかな?」

「やあ、天野くん」

 守人に声をかけたのは、坂下ミサという守人と同学年の少女だった。

「こんにちは坂下さん。ヴァルきちも」

 ミサの胸ポケットからは、ヴァルキリー型バトルアーツのヴァルきちが顔を出していた。

「ヴァルきち治ったんだ」

「うん、おかげさまでね。助かったよ天野くん」

 ミサは嬉しそうに小躍りしそうな感じでいる。サイバーダイン社のワーグ事件からしばらくたち、再アップデートが施された今、バトルアーツたちは再び人類の友として共に歩んでいた。

「天野くんは今日バトルしにきたの?」

「そうだね」

「じゃあ、わたしとバトルしない? ヴァルきちがラディすけくんにリベンジしたいんだって!」

「そろそろ、そのマフラーを取り返したくなったからな」

「ヘッ、アンタなんかにゃ負けねえよ」

 そして二体のバトルアーツはそれぞれのマスターの元から地面に降り、各々の剣を引き抜いた。

 じっと相手の様子をうかがった後、両者は同時に駆けた。

「ん?」

 思わず声を出したヒロ太は、それに気づいた。

 ヴァルきちの体当たりをくらって、ラディすけは思わず吹き飛ばされる。

 ラディすけが体勢を整えると同時に、ヴァルきちはラディすけに向かって上段から剣を振る。

「クッ」

 ラディすけは剣でそれを受ける。

「どうしたラディすけ、剣に力がこもっていないぞ!」

「ヘッ、ここからだよ」

 ラディすけはヴァルきちの剣を払う。

 ヴァルきちはそのまま一定の距離をラディすけからとった。

「お前……」

 ヴァルきちは意外そうな顔をして、ラディすけをじっと見る。

 ラディすけは気合とともに駆け、ヴァルきちに連続剣を浴びせる。

 しかしヴァルきちはその全てを楽々かわし、いなした。

 そしてヴァルきちはラディすけの腹部を蹴り、強制的に間合いを作る。

「テメエ!」

「おい、お前。必殺技で来い」

「ヴァリアントブレイクか?」

「そうだ」

「ヘッ、後悔すんなよ!」

 ラディすけは天に剣を掲げる。しかし何も起こらない。

 しかしラディすけは肩まで剣をおろしたあと、ヴァルきちに突進する!

 ヴァルきちはヴァリアントブレイクを、魔王を倒したラディすけの必殺技を、真正面から受け止めた。

「やはりな」

 ヴァルきちは再びラディすけの腹部を蹴って、間合いを作った。ラディすけは思わず膝を落とす。

「ま、まだまだ……」

 立ち上がらんとするラディすけに、ため息を吐きながらヴァルきちは剣をしまう。

「テメエ……なんのつもりだ」

「止めだ。私は弱いものいじめをするためにバトルをしているわけではないからな」

「誰が、弱いものだ! 戦え! ヴァルきち!」

 ヴァルきちはため息をついて、ミサの肩に戻る。

「守人殿、そいつが復調したら教えてくれ。またバトルをしたい」

「ヴァルきち……わかったよ。必ず復調させる」

 ヴァルきちは守人に笑顔を見せ、「行こうミサ」と、その場を後にした。

「テメエ、待ちやがれ! 待って、くれよ……」

 ラディすけはその後守人によって電源を切られ、家路に着いたのだった。

 守人は考える。何のせいで不調だったのか? ヴァリアントブレイクも放てなくなっていた。それは何故だろうか?

「まるで魂が抜けたみたいに調子悪くなっちゃったね」

「魂が抜けた、か……コピーだからか?」

 ヒロ太はそんなことを呟いた。確かに今のラディすけは、最初のラディすけではない。サイバーダイン社の技術で複製されたコピーのラディすけだ。しかしそんなことってあるのだろうか?

 ラディすけは自らの電源を切った守人の手の中で眠っていた。

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