第14話 雨のち快晴!2

「二人に言わなきゃならないことがあるんだ」

「うん」

「笑わないで聞いてほしい」

「わかっているよ」

 ヒロ太も守人の言葉にうなずく。

「オレには倒すべき相手がいるんだ」

 守人の「それは誰?」という質問に、ラディすけはうなずく。

「そいつとは何度か戦ったことがあって、一度しか勝てなかった相手なんだ」

「ふむ、ラディすけが一度しか勝てなかったとなるとかなりの強敵とみたが」

「ああ、ヒロ太。そいつは史上最強の生物にして人類の天敵だった」

「で? そいつは?」

「オレたちはそいつを『魔王』と呼んでいた」

「魔王?」

 守人は一瞬笑いかけた。「魔王」なんてそんなものいやしないからだ。ゲームやマンガの中でしか聞かない名前。しかし、守人はラディすけの様子を見て、笑わなくてよかったと心底思った。あまりにも真面目な口調だったからだ。

「その『魔王』はあまりにも強く、オレの仲間は戦いの中で何人も死んでいった」

「凄まじい戦いだったわけだ」

 ラディすけはヒロ太に首肯する。

「思い出すのも苦痛なくらいの戦いだった。そんな中でもかつてのオレは、『魔王』にトドメの一撃を食らわせたんだ」

「勝った一度というわけだ」

「ああ、だが」

 そこでラディすけは言葉を詰まらせた。しかし意を決して再び口を開いた。

「ヤツは生きていた」

 激しい雨音が部屋に響いた。強い風とともに雷でも落ちてきそうな感じだった。

「オレがボロ負けしたワーグという新型バトルアーツに転生していたんだ」

 ラディすけはグッと拳をにぎる。

「ヤツを野放にしておくと、今度も人類を滅亡させるようなことをするだろう」

「ワーグを、というかワーグのデータを消滅させる必要があるわけだね?」

「そうだモリト」

「ラディすけ」

 そこでヒロ太は疑問を口にする。

「お前は何者だ?」

「オレは、ラディ。前世では『勇者』とか『英雄』とか呼ばれていた。いたんだ……」

 そこでラディすけは口籠った。

「どうした?」

「いや、イヤなことを思い出したからな」

「聞かない方がいいか?」

「この際だから言っとく。隠しておくことでもないしな。オレは生き残った仲間に王命で殺されたんだ」

 ラディすけは「簡単に言うと、裏切りだな」そうあっけらかんと言ったのだった。

「ワーグと、『魔王』と戦った時に、名前以外の全てを思い出した」

「だから、『ライアン』と呼んでも違ったんだね」

 ラディすけはそれを肯定する。

「魔王は……いや、ワーグは強力だ。とてもオレ一人では勝てないほどの力を持っている。倒すには仲間の助けが必要だ」

 ラディすけは「力になってくれないか?」そう頭を下げて頼んできた。

「言うまでもない。俺とお前は仲間だ。何の問題もない」

 頭を上げたラディすけはヒロ太に「すまない」と謝りかけたがそれをやめ、ヒロ太と握手を交わした。

「現状で問題は二点ある。『どうやってサイバーダイン社に潜入するか?』と、『剣がない』という二点だ」

「その内の一点は、解決済みだぞ、なあ守人」

 守人はリュックサックのポケットから小さなタッパーを取り出した。

「これは?」

 守人はタッパーのふたを開ける。そこには一振りの剣が入っていた。

「これ、太陽兄ちゃんに借りた剣なんだ」

「すごく強そうな剣だ」

「たしか『クリスタルブレイド』って名前だったはず。ラディすけが前使っていた、「騎士の剣」よりも強力な剣だよ」

「なにせ日本ランカーのバトルアーツが使っていた剣だからな」

 ラディすけは「すまねえ。恩にきる」と、剣を振ってみる。

「これ以上の武器は、なかなかないと思うよ」

「ラディすけ、ともに戦おう」

 ラディすけは涙をぬぐうように顔を拭き口を開いた。

「疑ってたわけではないんだけどよ、また拒否されたらどうしようかと、心配だったんだ」

「杞憂だったな」

「そうだよ、ラディすけ。キミは僕のバトルアーツである前に、僕の友だちなんだから」

 ラディすけは「友だち……か」と、一瞬憂いた表情をした。しかし、次の瞬間には、いつものラディすけに戻っていた。

「雨、上がったみたいだな」

 ヒロ太は外に視線を向ける。守人もラディすけも窓の外を見る。

「よし、外行こうぜ! このクリスタルブレイドの試し斬りもかねてバトルしに行こうぜ!」

 元気なラディすけが戻って、守人は心底ホッとした。

 そして三人は、外へと向かったのだった。

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