第13話 雨のち快晴!1

 その日も雨が降っていた。

 ここのところ雨続きで嫌になる。しかし、ラディすけにはそれがちょうどよかった。考える時間がたっぷり取れるということだ。

 公園でバトルできないというのは辛いが、そんなことをしている場合ではないし。

 ラディすけはじっと考える。そして外を見て、また自己の内側に潜る。どうしたらいいのか? どうすればいいのか? 悩みは尽きなかった。



       1



「どこへ行くのだ?」

 ヒロ太に聞かれた守人は、靴を履きながら「相談だよ」

「俺も行っていいか?」

「もちろん」

 守人はヒロ太とともに、外へ出た。外は相変わらずの雨で、憂鬱な気分になる。

 無言のまましばらく歩く。

「ラディすけのことか」

 守人は無言のまま返事をした。ヒロ太がそう聞くのも当然だ。ラディすけは守人の社会見学に潜り込んで以来、一言二言しか口を聞いていない。心配するなという方が無理だった。

「そうか」

 それだけでヒロ太も口を閉ざした。

 雨の中しばらく歩き、守人は森田家に到着した。チャイムを押した。

「はーい。おう守人か。どうし……」

 太陽は肩に乗っているバトルアーツがラディすけではないことに気づいた。そして、守人の顔を見る。

「ま、とりあえず入れよ」

「ゴメンね」

 守人は傘を閉じ、雫を落としから森田家の傘立てに傘をさした。それから太陽の部屋へと案内された。守人を部屋に残して、太陽はどこかへいってしまった。

「守人、今のは?」

「森田太陽さん。バトルアーツの日本ランカーで、大学受験中のお兄さん」

 太陽が麦茶を両手に持って部屋へ入ってきた。

「その赤いのは新しいバトルアーツか? それと、青いのはどうした?」

「赤いのはヒロ太。拾ったバトルアーツなんだけど、今日は青い方の、ラディすけのことで相談があるんだ」

 太陽は「そんなことだろうと思った」と、麦茶を一口飲む。

「で? 何があった? ケンカか?」

 守人は首を横に振る。

「この間、社会見学にサイバーダイン社へ行ったんだ。そこにラディすけがついてきたんだ」

「好奇心強そうだったもんなあ」

「そこでサイバーダイン社の新作と戦ったんだ」

「へえ」

「そこでラディすけと僕はボコボコにやられて、ラディすけは剣までへし折られて、それ以来口を聞いてくれないんだ」

「まあ気の強そうなバトルアーツだったからな、負けたことが悔しかったのかもな」

 そこにヒロ太が口を挟む。

「それだけではないと思う」

「他になんかあるのか?」

「なんというか、ラディすけはこう、隠し事ではないが、なにか俺たちに言っていないことがあるような素振りがあった」

 ヒロ太は「一応気づかないフリはしていたが」と付け加えた。

「太陽、我々はどうしたらいい? ラディすけが言わなかったことが原因なら、聞くべきか聞かざるべきか。守人もそこを悩んでるのだと思う」

「俺から言えるのはただ一つだ。そばにいてやれ。で、ラディすけが言いたくなったら聞いてやれ」

 雨の音が強く響いていた。

「……わかったよ。そうしてみる」

 口を開いたのは守人だった。すると太陽は、「そうだ!」と手を叩いた後、チェストの中身を探し始めた。

「たしかこの辺に……あった!」


 そして守人とヒロ太は太陽によく礼を言い、家へと帰って行った。

「守人」

「何? ヒロ太」

「きっと大丈夫だ」

「……うん、ありがとうヒロ太」

 家に着いた二人は、手洗いうがいを済ませた後、部屋に戻った。

 部屋の中にはまだ何かに悩むラディすけの姿があった。守人の中に、太陽の言葉が思い出される。

「そばにいてやれ」

 守人はとりあえず、本棚からマンガを取り出し読み出した。普段なら三人で興奮しながら読む「はじめの独歩」だが、一人で読んでもなんとなく気が抜けて見えた。

 そんな空気が一時間ほど流れたあと、何かを叩く音がした。

 守人が振り向くと、そこにはラディすけが立っていた。

「モリト、ヒロ太話があるんだ。聞いてくれないか?」

 「はじめの独歩」を閉じる音の後、ラディすけは重かった口を開いたのだった。

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