第4話 逆襲の鎌瀬1
爪をかみつつ貧乏ゆすりをしていたのは鎌瀬だった。
「クソが、あのチートヤロウめ」
机を叩き、イライラをぶつける。しかし誰もいない家の中に言葉を返してくる者はいない。ハウンドβも黙っているだけだった。話しかければひどい目にあわされるのを理解していたからだ。
「チートのくせに」
しばらくして鎌瀬は思いついた。それはたしかにバトルアーツの公式ルールに則った行動ではない。しかし相手はチートを使うヤツだ。ルールに乗っ取らなくても別に構わないだろう。
「フヒヒィ、目にモノ見せてやる」
そして鎌瀬は電話を手に取った。
1
守人とラディすけは公園でバトル真っ最中だった。
「ああ! また勝ったぁ!」
勝ったのは今回もラディすけだった。
「スゲエ! 天野君これで五連勝じゃん!」
守人は少し天狗になっていたが、ラディすけは若干の物足りなさを感じていた。周囲の敵があまりにも弱かったからだ。確かにヴァルきちレベルの強さがあれば、十四連勝できるかもしれない。
ラディすけは一息つこうとする。
「守人、そろそろ帰ろうぜ。もうすぐ五時だ」
剣を納めつつ、「良い子は帰る時間だ」そう守人に促す。
「もうちょっと戦いたいけどもうそんな時間かい?」
守人以外のオーディエンスももっとラディすけの戦いを見たい雰囲気ではあった。しかし薄暗くなってきてはいる。その上ラディすけのバッテリーもそろそろ心許ない。
「そろそろ潮時だよ」
そうしてラディすけは守人の肩に乗ろうとする。
「最後にオレと戦えよ」
人の輪に割って入ってきたのは、鎌瀬だった。その顔はニヤつき、「何か企んでいる」というのがバレバレだった。
「それとも、チートヤロウはオレと戦うのが怖いってか?」
しかし守人もラディすけも、その言葉にカチンときてしまった。
「僕らチートなんかしてないよ! ラディすけ、いいよね?」
「ああ、こんな挑発噛み砕いてやる! 出せよ、犬コロをよ。さっさと終わらせようぜ」
再び剣を引き抜きかまえたラディすけを見て、鎌瀬は口角を歪める。
「出てこい、新沼! 市川!」
新沼と市川はバトルアーツを起動する。
「ちょっと、三体一なんてバトルアーツの三つのルールに違反するよ!」
バトルアーツのルールブックにも「バトルアーツは基本一対一で戦うものである」と記載があるのだが、鎌瀬はそれを無視し、数でラディすけを潰そうとしてきたのだ。
「へっ、チートヤロウには丁度いいだろ?」
新沼はフランケンシュタインの怪物のバトルアーツを、市川はハーピー型のバトルアーツを取り出した。
「ずるいよ!」
叫ぶ守人をラディすけは悟す。
「モリト、コイツらに何言っても無駄だ。ただ剣で語るしかねえ」
ハウンドβの放ったサブマシンガンが号令となり、フランケンとハーピーが襲いくる。
「ザコが徒党を組んだところで!」
ラディすけはそいつらに向かって駆けた。
ハーピーは高く跳び上がり、上空からラディすけを襲う!
「へッ、そんな攻撃!」
剣でハーピーの攻撃を切り払う。しかしそこへフランケンシュタインの巨体を生かした攻撃がラディすけのボディを抉った。追い討ちをかけたのはハウンドβだ。放たれたサブマシンガンの弾丸が、膝をついているラディすけめがけて放たれ、ラディすけは尻餅をつく。
「イケる! チートヤロウに勝てるぞ!」
「ラディすけ!」
「ああ、大丈夫だ。すぐに勝って帰ろうぜ」
すぐにラディすけは立ち上がった。襲いくるは三体の怪物。普通のバトルアーツなら恐怖を感じるだろう。しかし、ラディすけはこういう状況になれていた。
「不利は承知の上、いつものことさ」
再び掃射されたサブマシンガンの弾丸数発を、ラディすけはその体で受け止める。
弾丸と言っても実弾ではない。発射された電気の弾。実際に壊れるわけではない。しかし、バトルアーツの体力値を減らすという意味では実弾と対して変わらない。
ラディすけは剣をかまえ直し、気合いとともにフランケンシュタインめがけ走る。
「捕まえろフランケン」
頭に刺さっているボルトのスキマから蒸気を発しそうなほど気合を入れたフランケンは、ラディすけを捕まえようと手を伸ばす。しかし、ラディすけの狙いはそこではなかった。
「オイラのフランケンを土台に!」
新沼の叫びを聞きながら高く跳び上がったラディすけは、急降下してくるハーピーの胴体に、剣を叩き込んだ。
「うおおおおお!」
気合とともには垂れた一撃をくらい、悲鳴に似た叫びを上げながら、市川のハーピーは戦闘不能になった。
ラディすけは更に落下しつつ、ハウンドβのサブマシンガンの弾丸を切り払って、着地と同時にハウンドβに剣を突き刺した。
そのままラディすけはフランケンに向かって駆け、フランケンに反撃のスキを与えずに連続で剣戟を見舞った。
三体の怪物は、五分と持たずに倒れた。
「で? 次は?」
ラディすけは肩に剣をのせてリズムを取る。
「クソ、やっぱりチートじゃねえか!」
鎌瀬たちは自らのバトルアーツを拾い上げ、逃げていった。
「ラディすけ! すごいじゃないか!」
しかしラディすけは返事をしない。
「ラディすけ?」
どうやら立ったままではあるが、バッテリーが切れていたらしい。
守人はなんだか勝った気がせず、ラディすけを拾い上げて公園から帰っていった。
「ゴメンラディすけ……ゴメンよ」
得体の知れない無力感で、守人はいっぱいだった。
こんな時どうしたらいいか? そんなのは決まっていた。守人の家の近所に住む、あの人に相談する。それが一番だろう。
守人は帰宅し、ラディすけを充電しながら、明日必ず相談しに行こうと決意したのだった。
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