第3話 たたかうフィギュア3



 目を覚ましたラディすけが最初に見たのは、座っているラディすけを覗き込んでいる、守人とミサの顔だった。

「あれ……ここは……」

「公園のベンチだよ。坂下さんがモバイルバッテリーを貸してくれたんだ」

「そういや、そうだったな」

 ラディすけは立ちあがろうとする。それを守人は止めた。

「コードが抜けちゃうから、そのままでいなって」

「あ、ああ」

 ラディすけは大人しく座りそして守人やミサの向こうにある空を見上げた。

 木漏れ日の向こうには、ここでも青い空が広がっていた。手を伸ばしそうになったが、やめておいた。それはもう手に戻らないモノだから。

 ミサと話す守人をジャマしないように空を見続ける。すると、隣に誰かが座った。

「失礼する」

 青いマフラーをした鎧姿の女がそこにはいた。

「アンタは?」

「ミサのバトルアーツだ。ヴァルきちという名前だ」

「ヴァルキリー型だからヴァルきちか。オレはラディ。モリトにはラディすけなんて呼ばれてるがな。まあ、よろしくな」

 正直ラディすけは「ヴァルきちとは安直なネーミングセンスだなあ」と思ったが、口にはしなかった。

「お前今安直なネーミングセンスだなと思ったろ?」

「あ?」

 そうは言いつつも、「ヤバい、態度に出てたか?」なんて少しだけ悪いと思ったが、それも言葉にしなかった。

「私もそう思うよ。でもミサは悪いヤツじゃない。これからミサと仲良くしてやってほしい」

「オレも程々穏便にいきたいね」

「ああ、私もだ」

「変なこと聞くけどよ、この世界はどうだ?」

「どう?」

「ん、ああ、まあ住みいいか? とかってことだよ」

「ほとんど毎日バトルに明け暮れているが、ミサは優しいから私にはいい世界だな」

「そうかい。それは何より」

 ラディすけは再び空を見上げながら「ならばまんざらでもないのかな」そんなことを考えていた。


 それを見てヴァルきちは笑う。

「ねえラディすけ」

 空を見ていたら、守人が覗き込んできた。

「どうした? 腹でも減ったか?」

「違うよ。坂下さんが、後でバトルしてみないか? って」

「ああ、そういう……。だがな、オレの剣はあんま女に向けたくねえんだよなあ……」

 それを聞いてヴァルきちは鼻で笑う。

「臆病風に吹かれたか」

「弱者の相手はできねえってんだよ」

「私は弱者か?」

「みんな弱者だよ。どっかしらみんな弱え」

「なんだか哲学的だねえ」

 ミサはラディすけの言葉を聞いて率直に返した。

「でもヴァルきちも強いよ? 何せ今十四連勝中だからね」

「しゃあねえなあ」

 ラディすけは立ち上がると、背中に生えているコードを引っこ抜いた。

「バッテリーは大丈夫なの?」

「心配すんなモリト、さっきよりは回復してる。それにミサにはバッテリーを借りた恩義がある。それをバトルで返さねえとな」

 そしてラディすけとヴァルきちはベンチから飛び降り、華麗に地面へと着地した。

 ラディすけは、手首と足首をくるくると回す。

「さあ、始めようぜ」

 そしてラディすけとヴァルきちはお互いに剣を抜いた。

「ヴァルきち、遠慮しなくていいからね」

「了解ミサ」

 うなずくヴァルきちは、剣に力を込める。そしてヴァルきちは駆けた! ヴァルきちの上段からの一撃をラディすけは切り払う。

「私の一撃を受け止めるとは!」

「なかなかやるじゃねえか」

 ラディすけはヴァルきちを振り払う。

「お前もなラディすけ」

 ヴァルきちはスピードでラディすけを惑わす。しかしラディすけにはその一撃一撃が全て見えていた。

 ヴァルきちはすぐにその事実に気づき舌打ちをする。ほんのわずか、小さじすりきり一杯ほどもない苛立ちがヴァルきちを襲った。その次の一撃、ヴァルきちの攻撃はほんの少しだけ大雑把になった。

 それを見たラディすけも、ヴァルきちも気合の一撃を放つ! 

 先に届いたのは、ラディすけの剣だった。ラディすけの剣は、ヴァルきちの脇腹を薙いでいた。

「ヴァルきち!」

「ミサ、一撃で体力を半分以上持っていかれました」

 ラディすけは剣を肩に抱え、トントンとリズムをとる。

「どうする? もう少し続けるかい?」

 ラディすけは剣をかまえる。

「ミサ」

「そうだね。今回はわたしたちの負けだね。ああ、でも悔しいな。もう少しで十五連勝だったのに」

 守人は小躍りしそうなほど喜んでいるが、なんとか出さないようにがんばっていた。

「オイ、顔が気持ち悪いぞモリト」

 滲み出るものは隠し切れなかった。

「でもまあ、今日はこんなところかな」

 そしてラディすけは剣を鞘に収める。

「ラディすけ」

 ラディすけはヴァルきちに振り向く。

「なんだよ。まだなんかやる気か?」

「コレを」

 ヴァルきちは青いマフラーを外し、ラディすけに渡す。

「いつか再戦しよう。そして私が勝ち、そのマフラーを返してもらう」

「わかったよ」

 ラディすけはマフラーを受け取ると、首に巻きつけた。

「うん、いいねぇ、青春だねえ」

「かっこいいよラディすけ。青い剣士らしいよ」

 ちょっとテレ臭いが、まあ良しとした。ここに青の剣士「ラディすけ」は正式に誕生したのだった。



        エピローグ



 それはラディすけと守人が家に到着し、ラディすけを充電している時に出た話だった。

「何? 出たいの?」

 守人はうなずく。

「確かにオレももっと強いヤツとは戦いたいけどよ」

「ダメかな?」

 ラディすけは唸りながら考える。

「まあいいんじゃねえか? 勝ち上がってやろうぜ『選手権大会』だっけ?」

 それはバトルアーツの公式が運営する、一番大きな大会。「バトルアーツ選手権大会」の話だった。守人はそれに出たいと言っているのだ。

「よし、明日から目一杯特訓だな」

「そうだね。一緒にがんばろうね」

 目標ができたところで、その日は眠ることにした。今日はいい夢が見られそうだった。

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