第293話 狂人の芽吹き

 恐ろしい雰囲気だった。


 沈黙を破った言葉、当人達も辛そうな表情を見せるが、それ以上の言葉を発しはしない。


 ここで発言してしまったら、更に状況を混乱させてしまうから、心を傷付けてしまうから……それ以上の言葉は言えない。


 瑠愛の瞳には微かに涙が浮かんでいる。

 斗真は下を向き、唇を強く噛んでいる。


 対して、こんな状況を引き起こした元凶の瑠衣は必死にニヤケを堪えていた。

 引き出したかった言葉を遂に本人の口から引き出したのだ、その喜びは想像以上に素晴らしい美味さ。


(ヤバい……めちゃくちゃ上がる♪)

 思考は完全に狂人だ。


 この時、初めて彼女は自覚した……自分が……


【この場にいる誰よりも狂っている】


 事を……。


(最高だわ♪)

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