第35話 私のさよちゃん???


「本当に勝ってしまうとは……」


 終わってしまえば刹那と育枝の圧勝。

 その結果に多くの者が歓声をあげ、城内にある観客席や街の方から沢山の声が盛大に響き渡る。さよはそんな状況を作り上げた二人を見て呟いたのだった。


「凄すぎます……」


 見ているだけでも手に汗を握る程に高次元な戦いだった。

 時に知らない暗号のような言語を使い、時に誰も予期せぬ結果を意図的に起こし、と見ている方がハラハラドキドキしてしまう、そんな戦いに心を打たれたさよ。

 そして思う。

 彼らは元いた世界で一体どんな毎日を送っていたのだろうかと。

 魔法と言う彼らにとってはイレギュラーを相手に戦い抜いただけではない。

 相手が熟知し何十年とし手慣れているゲームでつい先日ルールを覚えたばかりの初心者二人が大和の有力者達ですら誰一人勝てなかった相手に勝ったという事実はまさに衝撃的で圧巻だった。

 そして理解する。

 この瞬間。

 人間(ペンタゴン)最下位が神の国でも実力者だった一人を倒したのだと。

 そして思い出す。

 小さい頃、琢磨がさよに夢を語るように話していた昔話を。


『これは過去にもあったお話し。ある日多くの人々が困っていた時の事、異世界人がひょっこと来ては世界のバランスを調整しにきたことがあるんだ。魔力がない、魔法は使えない、なのに当時この国の暴君国王に一発ぎゃふんと言わせた伝説のダイス王と呼ばれる少年がな。だから……もしそのお方がもう一度この世界に来てくれたら俺達はアギルの支配から抜けられるかも知れない。だからいつかそのお方が来るその日までなにがあっても耐えるんだ、さよ』


 今なら琢磨が小さい頃さよに言っていた言葉の意味が理解できる。


「ダイス王の再来……がこの人達なのかしら……」


 事実そう思えるほどに過去の話しと今がリンクした。

 だけどそれを聞いた琢磨が首を横に振り否定する。


「違う。それ以上だ……。未来視など普通はできない」


 その言葉に頷く。

 そう歴史上魔法なしで未来視が出来る者などペンタゴンですら存在しない。

 すなわち歴史上、初めての快挙を目の前で見せつけられたと知る。

 それ故に――。


「ペンタゴンじゃないとするなら……もはや本当に神様なんじゃ……」


 そう思ってしまう程の存在が目の前に現れた、そう思うと心の声が出てきてしまった。

 恐い。

 これだけの力を持ちながら、勝負が終われば平然とし、これが当然の結果だと言わんばかしの顔をしている二人が恐い。

 そんな事を思うさよをチラッと見て刹那と育枝が膝を折り俯くアギルとそれを心配する唯の元に歩いて行く。


「約束は守れよ?」


 その言葉に俯いたまま返事をするアギル。


「わかっている。俺は王の座を降り、お前達の命を聞く。これでいいんだろ?」


「違う。それとあそこにいる一家の処罰を全て取り消す。それが当初の約束だったはずだ」


「わかっている。あの親子にもう罪はない」


 一度頷いてから刹那がさよと琢磨を手招きで呼び言う。


「約束は守った。これで文句はないな?」


「は、はい……」


「あ、あぁそうだな……」


 まだ状況が上手く理解できていないのか言葉に詰まる親子はお互いの顔を見て頷き合うことで何かを確かめようとする。


「……お礼は何をすれば?」


 その言葉に刹那が大きなため息を一つ。


「いらねぇよ。ただ――」


 育枝とさよを交互に見て、


「これからも育枝とは友達でいてやってくれ。それだけでいい」


「……ぇ?」


「お前が一番守りたかった物は守られたってことだ。良かったな、これからは親子の絆を大切にして生きていけよ。それと悪かったな、セントラル大図書館の時酷い事を言って本当に悪かった。すまん」


 そのまま頭を下げて謝る刹那にさよはついに何て答えていいかがわからなくなる。

 確かに傷付きはしたが、今にして思えば全ての行動に刹那と育枝の優しが含まれていたとなんとなくわかってしまう。

 だからさよはこらえきれなくなった涙を沢山零しながら、大きな声で今の気持ちを伝える。


「はい! こちらこそ助けて頂き……本当にありがとうございます!」


 そのまま声を出して泣き始めたさよをそっと自分の方に引き寄せて、頭を撫でてあげる育枝。


「もぉ~さよちゃんは泣き虫なんだから。私の胸で泣いていいよ」


「ぁ、ありひゃとぉ~」


 もはや涙が邪魔で視界がハッキリしない中、さよは育枝の顔を見てお礼を言って顔を胸に埋め泣く。

 そして、


「これで三回目だよ?」


 と刹那を見てニッコリ笑みで呟く。


「今回に限っては俺は絶対に悪くねぇからな!」

(抱きしめている感じ、嬉しそうにしか見えないけどな!!!)


「むぅ~私のさよちゃんを泣かした罪は重いから後で覚えておいてね」


「……はぁ。またかよ。はいはい、わかりましたよ、育枝様の望む罰を後で受けますよ」

(育枝の可愛い物好きが災いしてのかまってちゃんモードが発動すると無尽蔵に甘えてくるからな……コイツ)


 もう自分が悪役(犠牲者)でいいやと心折れた刹那は何度も小さく首を上下に振り早くこの話題に終止符を打つことにした。



 ――すると。


「聞きたい事がある。よいか?」


 その言葉が身体の向きを変えて頷く。


「あぁ」


「なぜそこの女は最後俺の行動全てを予測できた? もし未来視が可能な魔法だとしてもダイスの出目操作と併用は不可能なはずだ」


 その問いに、少し間を置いてから答える刹那。


「簡単な話し、お前の言う未来視とは魔法じゃないんだ。その正体は生体観察が得意な者なら誰にでもできるただの観察眼と徹底的な情報収集による予測なんだよ。だから正確には未来視ではなくただの予想や勘と言った類のもの。ただし育枝の観察眼はちょっと異常で相手の行動全てに意味を持たせようとしてくる厄介な目ってのが併用できた理由だけど、理解出来た?」


「……どうゆう意味だ?」


「やはり理解に苦しむあたり、お前そこら辺の頭が固いな。人の行動ってのはちゃんと理由があることが多い。例えば、貧乏ゆすり。これは「転位行動」とも呼ばれ、心の安定を保とうとしたり、無意識のうちに気持ちを相手に伝えようとしたりするときなどに見られ「欲求不満」や「苛立ち」を解消するための行為と一般的に言われていてな、それ以外にも髪をよく触るのは「退屈」「自分をよく見せたい」「相手へ好意のアピール」などそれぞれ意味がある。早い話しそれの応用がお前の言う未来視も正体だ」


「…………」


 アギルからしてみればそんな些細な相手の行動全てに意味があるとは到底思えないし、例えそれを見て理解したとしてもとてもゲームに応用できるとは考えられない。そんな事しなくてもそう言った系統の魔法がこの世には存在するのだからそれを使えばいいだけの話し。ただし使える者は限られるが。


「つまりはそうゆう事だよ。実際殆ど最後は私の勘の部分が大きくてね。実際に相手を見て私の中で勝手に作った相手(虚像)と何処がどう違うかを何度も勝負中に修正しないと使えない欠陥だらけの技なんだよ。でも欠陥があるから弱いんじゃない。欠陥があるならそれを誰かに補ってもらえばいい。私達は二人で一人だから」


 クスッと笑い微笑む、刹那と育枝。

 だが、敵であるアギルからしてみればここで一つの疑問が生じる。


「ならお前達はイカサマをしてその未来を手に入れたのか? お前はさっき補えばいいと言った。だが、その男のダイスも今にして思えば不自然な動きがあった。それを魔法と考えるなら補填はどうやってしたのだ?」


 なるほど。目の付け所としては百点満点。

 だけど、刹那の脳がふとっここである解を導き出す。


「そうだな……」


 そもそもイカサマとはいかにも本物らしいといった意味で、まがい物あるいは偽物と言うことを指す。対して魔法とは神秘的な作用を介して不思議のわざを為すものである。元いた世界でインターネットを通して得た知識ではあるが、その相違は世界が違えば当然異なってくる。ならば、この世界においてのイカサマとは一体なんだ。


「お前達の言葉を借りるなら魔法と呼び、俺達の世界の言葉で言うなら技術介入やイカサマと言うべきだろうな」


「ならお前はイカサマをしたと認めるのか?」


 その言葉に刹那以外の全員が静まり返る。

 その返答次第ではこの勝負の結果がひっくり返るのだから。

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