第34話 ダイスの神VS大和の王と従者 決着


「さぁ、魔法を使いなよ。アギル国王陛下」


 育枝の言葉にピクッと反応するアギル。


「あんたの魔法は言葉を原動力にして発動している。だったらその言葉を予想すればなにも恐くないんだよ」


 頬をピクッとさせて、


「良かろう。なら俺のとっておきだ。手向けとして受け取れ――」


 大きく息を吸うアギル。


「「ダイスよ大罪者に罰を与えよ。王こそ絶対、民は忠誠を捧ぎ王にその身を委ねよ」」


 アギルの言葉に育枝が言葉を重ねる。

 迷いなく、次の言葉がわかるように、ただ何食わぬ顔でアギルの言葉を当てた。


「ど、どうなっている?」


「なにって、簡単だよ。私はセントラル大図書館で言葉を媒体とする魔法の大半を全て暗記しただけ。その効果と魔力消費量、使用条件もね。後は私が詠唱して魔法を使えばいい。最良のタイミングで最大級の魔法を確実にね。そして妨害系統の魔法が衝突した時、ダイス並びアバターとの魔適性質(まてきせいしつ)が高い方の魔法が優先されるんだよね? だったら、神である私が負ける通りはないかなって♪」


 不敵な笑みは絶対の確信を得ており、余裕に満ちた顔は小悪魔のよう。

 だけどそんな小悪魔はセントラル大図書館の魔導書をあさり僅か三日で五百を超える魔法を全て丸暗記し、他の魔導書や参考書を時間の許す限り速読で頭の中に叩き込みとダイスの神を名乗るに相応しい才能の持ち主なのである。

 そんな出来の良い育枝の言葉を具現化する為、刹那が再度集中し最後の仕事をする。


 投げる時にダイスに付けていた視認がしづらいピアノ線三本を操り、すれ違うタイミングでアギルのダイスと育枝のダイスに一本ずつ付くように操作する。もしここでピアノ線通しが接触し音を鳴らしたり太陽の光が反射などしたら一瞬でバレてアウトなので、全神経を目と指先に集中させ、最良のタイミングでそれぞれのピアノ線を操っていく。


「さぁ、私と勝負だよ。自分の出目を基準にして相手の出目を強制的に自分の出目からマイナス十五した値にする。魔法の効果はシンプルだけど強力なこの魔法が果たしてどちらの味方をするか楽しみだね」


 固唾を飲み込み、アギル、唯、観客、が見守る。

 魔適性質が高いと言う事はそれだけ魔法の理解を深めたと言うわけではない。

 魔法の真髄を理解し実際に魔法を使い慣れ、その魔法を強める効果があるダイスやアバターの装飾品を装備したりと、やれることを全部してその総合値で評価される。その為、財があり、ダイスとアバターの装飾品をガチガチに決めているアギルが現状かなり有利に見える。

 それでも育枝が勝つような素振りを見せるものだから皆が皆途中から黙ってしまったのだ。


 そして沈黙は驚きへと変わっていく。


 育枝のダイスがアギルの出目からマイナス十五した出目四十二で止まった。

 その直後だった。

 育枝のダイスの出目を基準に今度はアギルのダイスが再度唐突に動き始め二十七へとなった。


「――――――なんだと!?」


 本来起こりえない状況に最早頭が追いついていないアギル。

 そしてイカサマを疑い言葉を紡ごうとした、その時だった。

 育枝が先に言葉を紡ぎ始めた。


「イカサマ? って言いたのかな?」


「……っう」


 図星だと言わんばかり反応を見せる。

 さっきから未来を見られているような感じに不快感を覚えているのか、どこか窮屈そうだ。


「偽りの指輪って知ってる?」


「相手の魔法を受けた時、プレイヤーの任意で対象を味方に移すことができる指輪だったな?」


「そうだね」


 すると育枝のアバターが付けていた指輪が砕け散った。

 そして育枝が指さすとアギル、唯、さよ、琢磨、観客の視線が育枝のダイスに向いている間に最終調整まで終わった刹那のダイスが出目四十二で止まっていた。


「ま、まさか――!?」


「そう。私は魔法の効果を受けていない。そもそもほとんど同じタイミングでダイスの動きが止まった時点で気付くべきだったね。効果対象が変更されている事に。もっと言うなら私のアバターだけが唯一装備していた装飾品に気付いておくべきだったね」


 ここから育枝の本領が発揮される。

 それは刹那ですら敵に回せば恐ろしいと思う程で虚像の未来予知とも呼べる思考掌握。


「私の眼は誤魔化せないよ」


 育枝の目はただアギルの迷いのある瞳の奥を見通すように向けられる。


「瞳孔の開き具合や視線の動き全てを捉えているからね。なぜお前がこの魔法を俺より上手く使える? その程度の装飾品とダイスでは無理だ。って言いたいんだよね?」


「……ッ!?」


「簡単だよ。世の中理屈じゃないんだよ、弱い者は負け、強い者が勝つ。ただそれだけ」


 事実、その通り。

 相手の観察が終わった育枝の力の前では大抵の者が戦わずして負ける。

 そしてそれを裏で支えているのが刹那。

 いつも表舞台に立ち最前線で戦っているが、いざという時は育枝を主役に置き、自分をサブに置き勝負を仕掛けていく、当然その逆も然りと変幻自在のプレイスタイル。それが『ダイスの神』の強さの秘訣。


「ならステータスを振り分けて次に行こうか? このHPゲージ差ならこのターンで負けることはないって思ってる? ……悪くないと思うよ。愚策だけどね」


 ボソッと相手に聞こえるか聞こえないかの声で呟きながら手を動かす育枝に刹那はやれやれと首を横に振った。相手の根本から根こそぎ引っ張り抜いてやろうとする育枝が表面には一切出さなかったが、今も心配そうに見守るさよをコケにし愛する兄を散々馬鹿にされた事で内心はぐつぐつと熱くなっていたらしい。


「例え手が分かっても対処出来なければ何も問題はない」


 奥歯を噛みしめ、毒を吐くアギル。

 確かに一理ある――だが、それがチェックメイトとは考えなかったらしい。

 刹那と育枝はそれぞれ全振りで攻撃に振った。

 このままどちらかが仮に敗北する結果になっても、もう運命は決まっているのだから、今さらビビる必要はない。

 アギルに攻撃の意思はないらしく、案の定防御へと回る。

 そこへ放たれる二体のアバターの攻撃を受けHPゲージを三十減らし、これで全員のHPゲージの差は狭まった。


 刹那一、育枝十二、アギル二十。これが今の状況。

 勝負は終盤戦となった。

 泣いても笑っても後数ターンで決着がつく。 

 運命の第七ターンが始まる。


「ふざけるなぁ!!! こうなったら――」


「やめときな。出目を百にする魔法を使っても無駄だよ。なぜなら私の出目が百だからね」


 グラサイの重心を操作し意図的に出した出目を見せつけ、相手のペースを完全に崩していくメンタルブレイクを見た刹那は鼻で笑いながら自分の出目だけを今回はピアノ線で操作し百にした。


「もう諦めろ。お前がダイスを妨害したら俺はアバターに魔法を使う。もう詰みゲーってやつだ。お前に勝ち目はないどころか、俺達が魔法攻撃を使えばその合計値は極振りに限り二百四十まであがる。少しは冷静に頭を使えばもうこの勝負お前の『必敗』だとわかるはずだ」


 転がるダイスから刹那に視線を変え、唇を噛みしめるアギル。

 握られた拳が震えているのは、この状況に納得が出来ず悔しいからなのだろう。

 だけどそれは仕方がないこと。

 全て最初からこうなるようにゲームが進行していたかのように思わさせられた時点でアギルと唯、そして観客もダイスの神を超える事は出来なかったのだ。


「す、すごい……」


 ボソッと聞こえてきた声に刹那は振り向き頷いてあげる。

 視線をさよからフィールドに戻し最後の瞬間を見届ける刹那。

 するとアギルと視線が重なった。


「まだだ! 俺は王として負けるわけにはいかないのだ! 民達の抑止力であり、他国の抑止力でもあるこの俺に敗北は許されない。財は知となり力となり、偽りの平和を生みだし一時の平穏を与える。故に俺は偽りを真実へ変えなければならないのだぁ!!! これが最後の勝負だ!」


 アギルの叫び声が天空城全体に響きわたった。

 王としての立場がここまで彼を奮い立たせているのか、彼の純粋な思いがここまで彼を奮い立たせているのか、最早どちらなのかはもう関係ない。

 この状況を本気でひっくり返すつもりなのか、出目が確定したアギルが強気でステータスを振り分けていく。

 そして不気味に笑い始める。


「ふふっ、あはははは……」


 その挑戦を受けてたつことにした刹那と育枝もアイコンタクトだけで意思疎通をし、ステータスの振り分けを行う。それから『戦闘ターン』へとゲームは進行する。


 恐らくこれが正真正銘アギルの切り札――魔法。

 言葉はなかった。

 育枝を警戒してだろう。

 アギルのアバターが雷を纏う。

 その光景に息を飲み込む観客。


「先制攻撃確定かつダメージを与えたタイミングの六十パーセントの確率で魔法雷撃による連続攻撃権得る、アバター強化系統の魔法でもトップクラスの強さを持つ魔法だね……背水の陣は使うタイミングを間違うと痛い目にあうのに……」


 全てを見透かしたような声で育枝が解説した。


 そして育枝の言ったとおりにアギルのアバターが育枝のアバターに攻撃する。

 雷撃を纏った一撃が育枝のアバターを容赦なく切り裂く。

 が、ダメージが通らない。


「……!? あり得ない」


 驚くアギル。


「なんであり得ないの?」


「魔法攻撃【大】をこっちは使ったんだぞ! なのにどうしてダメージが通らない」


「そんなの決まってる。私が防御力【小】と防御にステータスを全部振ったからだよ」


「出目百で防御だと!?」


「うん。出目八十六でどうしてくるだろうって考えた時、もう後がない以上性格上勝負を急ぐと思ったんだよ。となると、私か刹那どちらかが確実に生き残ればいいと私は考えた。だからだよ。それに今の状況だと刹那より私の方が恐いでしょ? つまり間違いなく優先して狙われるのは私だと思ったんだよ。王ってのは沢山の文献に色々と情報が載るから気を付けておくといいよ、その手も過去に一度使ったって書いてあったからすぐに予想がついたよ」


 こうなると全て知っていたかのように、雷撃の一撃を受けてピンピンしている育枝のアバターはまさに不動の王のような貫禄があった。そして育枝にダメージを与えられなかったことにより、連続攻撃の恩恵を受ける事ができなかったアギルのアバターへ今度は刹那のアバターが攻撃する。攻撃に全てを賭け、防御を捨てた以上、結末は決まっていた。刹那のアバターの一撃が綺麗に決まり、『ダイスゲーム』は終わりを迎えた。

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