第19話 女性にスリーサイズを聞くときは慎重に


 ――三十分後。

 さよが部屋に戻って来たことで、ようやく今日の目的地であるセントラル大図書館へと行くことになった三人。

 運営は国営でそれなりにお金も掛けて作られているらしい。

 そうは言っても刹那と育枝はまだこの世界の地理ついて詳しくないので、さよに道案内をお願いして連れて行ってもらう。

 道中の道のりはそれほど遠くはなく、片道徒歩で二十分ほどの場所にセントラル大図書館はあった。


 セントラル大図書館と言うだけであって、外見からわかる程にとても大きい。

 広さにしては大型ショッピングセンターの建物ぐらいだろうか。

 話に聞く限りでは地下三階地上三階と計六階の広さを持つらしい。


「さぁ、中へ入りますよ」


 早速に中に入ると壁一面、綺麗に並べられた本棚とその中を沢山の本が埋めている。

 これだけでも調べ物には困らない気しかしない。

 むしろこれだけの中から本当に自分達が探している本を都合よく見つけれるらかが心配になってしまう。


「すげぇー」


「わぉ~、これが異世界の図書館」


「「広すぎる……」」


 心の声が漏れている二人を置いてさよが受付に行き手続きをする。

 そのままここに来る道中聞いていた二人の探している本がある地下三階へと案内する。


「……ねぇ、さよちゃん」


「どうしましたか?」


 育枝は前を歩くさよに気を付けながら周りの光景を見ている。


「ここってどれくらいの本があるの?」


「そうですね……詳しくはわかりませんが恐らく地下だけで十万冊はあると思います。それと分厚い本は一つで千ページ超える物もあると昔聞いた事があります」


「それもう本じゃなくて辞書だよ」


「ハリーポッターかよ」


「どちらも正解かもしれませんね。うふふっ」


 つまるところ、ただ広いだけではなく、あちこちに配置された休憩兼読書スペースは重たい本をわざわざ遠くに運ぶ必要がないようにと設置されているわけで、ただ闇雲に用意されているわけではないと言うことである。


「あっ!」


 何かに気付いたように声をあげる育枝。


「どうした?」


「見つけた」


 少し離れた所にある本棚を指さす育枝。


「ならあちらに行きましょう。あちらにも突き当りに読書スペースがありますので」


 方向転換をして刹那と育枝を誘導するさよ。


「そうだな」


「わかった」


 休憩スペースに着くと早速近くの本棚から分厚い本をそれぞれ一冊ずつ手に取り戻ってくる刹那と育枝。さよはそんな二人を見てなんとなく横並びで座る二人の隣、つまりは刹那の隣に座って早くも真剣顔の刹那をチラッと見ては館内に視線を飛ばし持ってきた小説をショルダーバッグから取り出し読み始めた。だがなんとか仲良くなりたい、力になりたい、という気持ちが邪魔して中々本に集中できず、気付けば定期的に隣にいる刹那の顔をチラチラと見る形になってしまった。


(どうしたのかしら、私……刹那さんの顔ばかり見て……)


 すると何か苦戦しているのか、表情を歪め頭を掻きむしる刹那。


「どうしましたか?」


「いや、ここに書いてある言葉の意味がわからんで苦戦している」


「ちょっと失礼します」


 身体を近づけて、本を覗き込んで中身を確認する。


「あぁー、魔適性質(まてきせいしつ)ですか。魔適性質とは魔道具適性とその性質の事を現しています。そして魔道具適性とは自身の魔力とその人が所有する魔道具との相性を現し性質とは特性を現しています。簡単に言うと人間関係に似ていてその人と合う合わないみたいな物です。つまりその人の持つ魔力と魔道具の相性が良いと魔力が少なくて魔法が使え、逆に相性が悪いと魔力消費量が多くなったり魔法の効果が半減したり、そもそも魔法が発動しなかったりと不具合が起きる、と説明すれば少しはご理解頂けますでしょうか?」


「あぁ……そうゆうことか」


 てっきり頭が悪いと思っていたのだが実は頭がいいのかなと思った刹那。

 だって『ダイスゲーム』の頭脳戦においては限りなく弱いから……。


「ちなみに魔力という物には波長があります。ただし波長と言っても血液型と同じく波長が違うからどうこうという物ではなく、この魔道具はこの波長の魔力を持つ人との相性がいいといった具合にしか影響はしません。ここで言う魔道具とは、ダイス、フィールド、アバターと思ってください。フィールドは地形変化スキルを使う際の影響力でアバターはそのアバターが使う武器を使った魔法攻撃や魔法防御の類ですね。当然それ以外にも詳しく見ればありますが、基本的な知識としてはこんな感じです」


 さらっと答えたさよに、刹那がきょとんとする。


「そうなると、知らない言葉を覚えないとさよに毎日馬鹿にされるわけか……」


 嫌味を込めて、冗談半分で言ってみると、


「なっ!? そ、そんなことしませんわよ!!!」


「怪しい……」


 ここで横やりが入ってくる。


「なら覚えたら?」


「オッケー」


 刹那と育枝が意思疎通をするが、からかわれただけのさよはだんまりする。

 そのままチラチラと刹那に視線を送るが、それ以降は困った様子を見せるわけでなく、別の本(魔法辞典)を使い意味を調べて自己解決していく刹那と育枝を見てため息をつくさよ。


「……私に聞けばいいのに」


 なぜか構ってもらえなくなったことに寂しさを覚えてしまう。


「構って欲しいの?」


 視線は本のまま、刹那が口を開く。


「べ、別にそういうわけでは……。ただ私も力になりたいと言いますか……」


 なので、ちらっと育枝に視線を向けてみるが、集中しているらしく刹那とさよには目もくれずただ黙々と目の前の本だけを見ていた。相変わらず頭の出来がいいなとは思わずにはいられない刹那は少し考えて。


「なら幾つか聞いていい?」


「えぇ、なんでもどうぞ」


「スリーサイズは?」


「……ん?」


 小首を傾けるさよ。

 反対方向から殺意をまとまった威圧的な視線を向ける育枝。

 あれほど集中していた育枝だが刹那の冗談は無視することができない話題だったらしく目がさっきより本気だった。

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