第18話 恋人にしか見えない兄妹
――翌日。
刹那と育枝は朝を同じ部屋のダブルベッドの中で迎える。
太陽の
昨日久しぶりに長い時間歩いた二人の身体には疲労が溜まっておりまだぐっすりと眠っている。
姿勢正しく仰向けで寝ている刹那を抱き枕のようにしてへばり付いている育枝の姿は第三者視点から見たら兄妹と言うよりは恋人同士にしか見えない。服装も生地が薄いキャミソール一枚と下着とまるで見てくれと言わんばかりの無防備状態。よく見れば刹那の方も……。
「本当に兄妹なのかしら……この二人……」
募る疑問を胸に抱えながら、客人の為に用意した朝食を持ってきたさよが呟いた。
部屋は入る前にノックしたが返事がなかったので勝手に入らせてもらった。
「ほら、朝ですよ。起きてください、ご飯冷めちゃいますよ」
カーテンと窓を開け、部屋の換気を始める。
すると寒いのか、急に縮こまる刹那と育枝。
このままでは起きないと判断したさよは二人が使っている毛布に手を伸ばし一気に剥ぎ取る。
「なんで二度寝しようとしているんですか。起きたんならそのまま起きててください」
「頼む……もう少しだけ……」
「だめです」
「「…………zzz」」
「……? って寝ないでください! あんまりしつこいようだとヤカンに氷水入れて頭からぶっかけますよ?」
――なるほど。
まだ朝の風がひんやりと寒い時期にそれをされるとなると間違いなく風邪をひくことになるだろう。たったの一手でまだ起きたくない二人に『起きる』を選択させる手腕お見事と言えよう。
「すまん、起きるからそれは勘弁してくれ」
「ごめん、私も起きるから」
瞼を擦りながらようやくベッドから立ち上がり朝食が用意されたテーブルへと動く二人を前にしてさよは小さくため息をついた。
(なんで『ダイスゲーム』はあんなに凄くてかっこよく見えるのに、朝はこんなにもだらしがないんでしょう……この二人は)
そんな事を心の中で思いつつも、大人しく無言のまま朝食を食べる兄妹を見る。
朝は弱いのか一言も喋らない二人。
まだうとうとしている事からそれは間違っていないと思われる。
まぁ、それは半分以上どうでもいいのだが、問題は別にあった。
「なんで刹那さんはパンツ一丁で育枝さんはキャミソールとブラジャーとパンツだけなんですか?」
「ん? それは昨日お風呂あがって部屋に来たら暑かったから来た物脱いですぐに寝たからだけど?」
「とにかくご飯を食べたらまず服を着てください。いいですね? 間違ってもその格好で部屋の外には出ないでくださいね?」
「わかった」
「私もりょうかいだよー」
元気のない二人の返事を聞いたさよはやれやれと頭に手を当てる。
一旦部屋を出て行く前に、朝食の片づけをしてくる間に服を着るようにと二人に言い残しさよはダイニングキッチンへと向かう。
――それから二十分後。
部屋に戻ると、懸念していた問題は無事解決されていた。
ようやく服を着た二人を見て、これで一安心のさよ。
「いやー夜は暑いけど朝はまだ寒いんだな、この世界」
本当に寒いらしく、部屋の窓を閉める刹那と。
「だね……。冷え性の私にはまだ辛い時期かも……ってことで温もりちょうだい」
朝から適当な理由を付けて甘える育枝がいた。
気軽に頼れる相手が近くにいて、それでいて自分の気持ちを素直に伝える事ができる育枝を見たさよは少しばかり羨ましく思えた。
年齢的にも性に興味が出てくる時期と言うこともあり、どこか心の中で『ダイスゲーム』だけでなく恋愛にも負けた気持ちになってしまう。
たしかに周りの友人の多くは彼氏持ちと自分だけが遅れていることもあり複雑な気持ちになってしまうさよ。
「う、うらやましいですわ」
「どうしたの?」
「べ、別に大したことではありません」
知らず知らずのうちに口からこぼれていた言葉に焦りながらも愛想笑いで最後は誤魔化す。
清楚なイメージとは裏腹に恋に興味があるさよの思いに気付かない刹那と育枝は持ち物の確認を始めていた。
「なにしてるんですか?」
「見てわからない? 持ち物確認だよ?」
「いやそれはわかりますが、何処かにお出掛けするんですか?」
「うん。街にあるセントラル大図書館にちょっと行ってみようかなって」
「なにか調べ物をされるんですか? もしよければ私でわかる範囲でよければお答えしますが?」
その言葉にさよを見て、育枝を見て、天井を見る刹那。
行くか、行かないか。聞くか聞かないか。を考えてみるが、全部が全部答えが返って来る保障がない刹那は少し間をあけて。
「それはありがたいが遠慮しておく。この世界についてありとあらゆることを知りたい。そう思ったら文献以上に頼りになる物はないからな。それでもわからない時はダメ元で聞かせてもらうよ」
「そうですか……」
せっかく何か力になれると思っただけにショックを隠せないさよに。
「ねぇ、もし良かったらさよちゃんも一緒に来ない? その方が調べ事にはうってつけだし、刹那はともかく私はさよちゃんとも一緒にいたいし、どうかな?」
笑みを向けて優しい言葉を呟いてくれる育枝。
「はい! 是非ご一緒させてください」
「うん。刹那もそれでいいよね?」
「暇なら別にいいが。帰りは遅くなるぞ?」
「そこは問題ありません。夜道でも男性の刹那さんがいれば安心できますから」
冗談半分の言葉に唇を尖らす育枝。
それを見たさよがクスクスと笑う。
「さよちゃん?」
「はい」
「……刹那は私の物だよ?」
「わかってますよ。さっきのは言葉の綾です。では私も身支度をしてきますのでまた後で会いましょう」
そのまま部屋を出て行くさよ。
異世界から来た刹那と育枝にあの日助けてもらったさよは心の中でいつか先日のお礼をしっかりしたいと考えていた。その為お昼は少しばかり気合いを入れて作ってみる。
「喜んでくれるといいですが、やっぱり手軽に食べられて美味しい物がいいですかね、うふふっ」
二人の喜ぶ顔を想像してみると、笑みが自然とこぼれる。
これがきっかけで今よりもっと仲良くなれたらいいなーと思ったさよの足はいつもより軽くスムーズに動き始めた。
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