第17話 お互いに高鳴る心臓 in お風呂
「なら続きはベッドでだね」
うっとりした目で同意を求めてきた。
「…………もう勘弁してください」
「あはは~半分嘘だよ。それでね、少し真面目なお話しいい?」
「あぁ」
「お昼過ぎ私と勝負したじゃん。実際に色々な魔法を使われてどうだった?」
記憶を数時間前に戻し、当時の出来事を脳内で思い出していく。
魔法と言ってもその種類は幾つもあり、あくまでさよが扱える範囲内での魔法。
それでも間違いなく言えるのは、魔法はとても強力で一癖も二癖もあり打開が難しいということだ。
それだけではない。
魔法の発動はプレイヤーの任意であり、こちらは使われたか使われていないかすらわからない。つまり相手はノーリスクなイカサマを使い、こちらはバレた時に敗北が確定するハイリスクなイカサマを使う事で何とか対抗できる。そう考えるととても分が良い勝負とは言えない。
「頭の良い奴が使うと最悪のチート。頭が悪かったり精神が弱い奴が使うと諸刃の剣ってところかな」
「なるほどねー、ならそこらへんは私と同じ感じかな」
「てか発動兆候がない事にはマジで厄介なんだよな」
「やっぱり刹那じゃわからないんだ」
「え? 育枝わかるの?」
「うん。ってもなんとなくだけどね」
「どうやって?」
「なんて言うかね、アリスの時やアギルの従者の試合を見てね思ったんだよ。最初は気のせいかな? と思ったんだけどだんだん見ているうちに多分そうってなったの。全員魔法を使うタイミングでほんの一瞬力んだり目線が動いたりって何らかのアクションを少なからず必要とするの。まるで見えない力(魔力)をダイスやフィールドもしくはアバターに入れるかのように」
「マジか。全然俺にはわからなかったぞ」
よーく思い出してみるが、やっぱり刹那にはどの試合も誰がどのタイミングで魔法を使ったのかはその事象が起きないと判断できない。
思考時間の算出において魔法というものがどのタイミングで使われたか、その効果まではハッキリとしなくてもそれだけでもわかってしまえば大分違うわけだが刹那以上に相手を観察し相手の思考を読むことができる育枝の洞察力や観察力があって初めて出来る技なのかもしれない。現に今でも刹那は可能な限り全ての『ダイスゲーム』の記憶を辿るが育枝が教えてくれたタイミング以外では全く分からないでいた。
「なら次の質問。私達のイカサマはこの世界で何処まで通じそう?」
「多分でいいか?」
「うん」
「一度使った手はそう何度も使えないと思う。使うにしてもタイミングと間隔が大事になってくる気がする。それと高度な技術を必要とする物と言うよりかはシンプルかつ強力なイカサマの方が案外良い気がした。頭の良い奴や育枝みたいに観察力が優れている相手には偶然で通せないイカサマは多分使えない。逆に頭が悪い奴ならイカサマを選ばずにある程度気軽に使える。俺はそう考えているよ」
「なるほど。まぁ魔法なんて物がある以上こう言った会話はこことかでしかできないよね。もしゲーム以外にも魔法を使われていて盗聴とかが当たり前かもと考えたら恐ろしいしね」
「たしかに」
刹那は育枝を見て頷く。
わざわざ今日に限って一緒にお風呂に入りたいと言ってきた理由がこれでようやく理解できたのだ。ただしなんで今日はいつもなら巻いているタオルがなく、全裸なのかそれだけがとても不思議だった。
男として目のやり場に困ると言うか、やっぱりチラッと視線が自然に誘導されてしまうと言うか。真面目な話しをしているはずなのになぜか集中できない。
「もぉ~さっきから何処見てるの?」
「あっ……いや……スマン」
「でもこれでわかった。刹那はいつも私に興味がない振りをしているけど、私の事を女として意識していて今日という日を境に私の身体にも興味をもってしまったってことが。それにしても私だけじゃなくて刹那も身体はしょう……」
――!!!
慌てて口を両手でふさぐ育枝。
危うく自分の今の状態をわざわざ暴露してしまうところだった。
間一髪で言い逃れたと思い込みたい育枝と言葉が途中で終わったために理解に苦しむ刹那の視線が重なり合いそのまま見つめ合う二人。
ドクン、ドクン、ドクン!!!
高鳴る鼓動に合わせて全身を駆け巡る血が熱くなっていく。
――。
――――。
恥じらいが限界を超えた育枝はさり気なく手を伸ばし近くに置いてあった白いタオルを手に取り胸元から下を隠す。
これが育枝の限界だった。
いちゃいちゃしていた女子高生を見て、それが必要以上に羨ましく見えてしまい、理由を後付けにした限界。
だけど限界と言う意味では刹那も同じだった。
そのまま急に気まずい雰囲気になった二人は無言で立ち上がると、脱衣所の方へと一緒に歩いて行く。ここでタイミングをずらさなかったのは二人共早く服を着たいという気持ちが前へ出てしまった為である。それと脳が慣れない『ダイスゲーム』の連戦と街中を歩き続けた事でかなり疲れており、湯舟に浸かった事をきっかけにお休みモードへとスイッチが切り替わり昼間のように頭が回っていなかったこともある。
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