第14話 決着
育枝にバトンタッチされた、第五ターン。
頭の中で育枝に通用する一手を考える刹那。
だけど早くも魔法と言う物を実践の中で理解し駆使してくる観察に特化したプレイヤーの前では使える手がかなり限られていた。
刹那のプレシジョン・ダイス出目十一。
案の定妨害を受けた為に出目が予期せぬ形となってしまった。
攻撃力……三
防御力……二
スキル……回復【小】(任意で六ポイント)
今回はこれでHPを回復しつつ攻撃をすることにした刹那。
戦闘ターンになるとどうやら育枝も回復を優先したらしくお互いのHPゲージが三ずつ回復した。
「二人共同じ!?」
さよの魔法でお互いに同じ出目が出た第五ターンは刹那と育枝のプレイングが勝負を握る。
わけだが――。
さよはこの時不思議な感覚に陥っていた。
この二人は一体どこまで先を見通し戦っているのだろうか。
そもそも初めて魔法でどんなことができ、どんな魔法が何回さよの魔力量では発動が可能なのかを聞き早くもそれを使いこなす育枝。それだけではない、相手の裏を読もうと考えてくる刹那の攻撃を受けつつもしっかりと追い詰める程の実力。これが本当に初めて『ダイスゲーム』をする者とは到底思えなかった。
対して刹那。
そんな『ダイスゲーム』の才能に愛されたような存在である育枝とイカサマありとは言え正面から戦っている。もし刹那がイカサマに対して自分から認めてくれなかったらイカサマを見破ることはできなかった。それくらい使うタイミング、そして使うイカサマは見破れないぐらいに精巧なのだ。
そんなペンタゴン――人間とは到底思えない二人は魔力がなく魔法が使えない。だけど異世界から来たという二人は強すぎる。仮に本気で手を組み『ダイスゲーム』をするとしたら一体どれだけのペンタゴンが対抗できるのだろうか、そう思わずにはいられなかった。
「今度は刹那さんの先制攻撃。育枝さん?」
「大丈夫。もう一人の私。ここは任せた」
刹那のアバターの攻撃が通り、その後育枝の反撃を受けてしまう。
再び育枝のアバターのHPゲージ一となり、刹那のアバターのHPゲージ四となってしまった。防御を捨て、最小限の回復と攻撃で状況をほんの少しだが確実によくした育枝。
「す、すごい、ここまでの接戦とは」
ここまで白熱した『ダイスゲーム』はめったに見られる物ではない。
強者と強者のぶつかり合い。
もっと見てみたいと思ったさよは口を開く。
「次のターンも育枝さんお願いします」
その言葉に頷く育枝。
「わかった。もう魔法は要らないよ。ここまで来たらゲームにも結構なれたしいけると思うから」
まだ奥の手があるかのように告げた育枝。
その表情はとても楽しそうだった。
そして運命の第六ターンが始まった。
ゴクリと息を飲み込むさよを置いてゲームは順調に進んでいく。
「始まる。最後の戦いが」
刹那と育枝のアバターはそれぞれが力を振り絞り戦う。
出目七十四の育枝に対して出目九十四の刹那が打った一手。
そして育枝の奥の手とは一体。
そんな感情に支配されていると、アバター同士の動きに変化が起き始める。
「今度は育枝さんの先制攻撃!」
先制攻撃の順番は毎回完全なランダムな為、どちらがどうと言うわけではない。
魔法の類で干渉する事も可能だが、育枝は今回純粋な自身の力だけで第六ターンを戦っている。
せっかく掴んだチャンスではあったが、育枝の攻撃は刹那の防御力が高すぎて通らなかった。
「チッ」
悔しくてつい舌打ちをする育枝。
「ふん」
狙い通りの展開につい鼻で笑ってしまう刹那。
そして攻守が逆転し、今度は刹那のアバターが攻撃をしていく。
刹那の振り分けは以下の通りだ。
攻撃力……三十
防御力……六十四
スキル……振り分けなし
育枝の性格から攻撃には六十以上振って来ないと考えた刹那は保険込みでステータスを振り分けた。その結果はどうやら正しく決着がつこうとしていた。
遂に刹那のアバターが育枝のアバターを切り倒す。
そして地面へと落ちていく育枝のアバター。
「お見事。流石は自慢の妹、育枝だ」
労いの言葉を送る、刹那。
「…………」
「とりあえず賭けは俺の勝ちってことで」
「…………」
「あれ? もしかして本気で落ち込んでる?」
「…………」
倒れたアバターをただじっと見て何も言わない育枝。
そんな育枝を励まそうと刹那が声を掛けようとしたときだった。
倒れたはずの育枝のアバターが立ち上がり、刹那のアバターを目にも止まらない速さで斬りつけ倒してしまった。
攻撃力……十
防御力……三十四
スキル……カウンターUP【小】
にステータスを振り分けた育枝は最後の最後で強運を発動していた刹那と同じく運を味方につけ勝利した。
「ごめんね、せ・つ・な♪」
ようやく発せられた言葉に「あぁ」と言って負けを素直に認める刹那。
空中の文字が『勝者 育枝』と切り替わり、三人の『ダイスゲーム』はこうして幕を降ろす結果となった。
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