第13話 まだ駆け引きは終わっていない
そして始まった第四ターン。
刹那の眼が見開かれ手から離れていく、百面ダイス――グラサイ。
それを指先でさらに微調整し絶対の確率で出目を操作する。
対して育枝の指示を受けたさよもダイスを投げる。
二つのダイスが転がりフィールドの真ん中で交わる時、今度はさよの投げたダイスが刹那のダイスを妨害するかのように突然向きを変えぶつかってきた。
「ごめんなさい。これも勝つためです」
申し訳なさそうに謝る、さよ。
「構わない。それも魔法だろ? それに――」
次の瞬間。
さよの眼が信じられない物でも見たかのように大きくなった。
「うそ……なんでダイスが不自然な動きを? 刹那さんは魔法を……まさか!?」
「そう、イカサマだよ。そのダイスはグラサイなんだが、ちょっと特別性でな。投げ方やその時の力加減で中の重心の位置を俺の意思で動かせるようになっている。当然このような形で外部の妨害を受けようと内部の重心の位置は既に俺の望む展開になっている。そして俺は必ず育枝の助言を受けたお前なら直接妨害してくると考えた」
「まさかこれを予測していたのですか?」
「あぁ。これくらいは誰だって思い付くだろう。相手が魔法を使えない、そして『ダイスゲーム』にまだどこか不慣れとなると難しい戦法よりこう言った直接的かつ単純な妨害の方が精神的にプレッシャーを与えやすいからな。そして相手の眼がそこに集中し視野が狭くなったところで一気に叩く。定石だろ?」
全てが読み通りである為、ご丁寧に解説までする刹那。
「…………言われてみればたしかにそうかもしれません」
そんな刹那の言葉を聞いてどこか感心してしまうさよ。
これが二人の差。
魔法がないなら知識でそれをカバーする。
それでも足りないなら技術でさらに補填すればいい。
ただそれだけの話し。
「ではお互いの出目が確定しましたので、振り分けに入りましょう」
一度頷いてからステータスの振り分けをしていく刹那。
ここで気になるのはさよも刹那の出目も百。
お互いにここが勝負の分かれ目になる重要な場面である事は百も承知である。
そうなるとやはり一番厄介なのはさっきから何も言わずただ刹那とさよのやり取りを静かに見守っている育枝である。育枝は少し微笑み、第四ターンが始まってずっと刹那だけを見ている。刹那に作戦が暴かれた今こそ助言の時ではないのかと思いたいところではあるが、動く気配すら見せない育枝に刹那は不気味さを感じられずにはいられなかった。下手に動かない、これが相手にプレッシャーを与える事もある。
ここは勝負に出る事にした刹那。
育枝とさよの二人の裏の裏までを考え導き出した答えに全てを賭けてステータスを振り分けていく。
残りHPゲージからも不利なのは刹那。
だったら背水の陣でここは攻めて勝つ以外に今の刹那に勝機への活路はない。
「俺はこれでいく」
「私もこれでいきます」
フィールド上空の文字が『判定中』へと切り替わる。
この勝負果たしてどうなるのか。
そう思い後は自分の選択に全てを賭ける両者。
その時だった。
育枝とさよのアバターが先制攻撃を仕掛けてきた。
これが通ればその時点で刹那の負けが確定する。
今の刹那のHPゲージ五では相手の攻撃以前に通れば負けが確定なのは明白。
「もらった」
勝利を確信するさよ。
だが――。
勝負はまだ終わらない。
「え!?」
「確率論の世界以前にお前は最初言ったぜ? アリスを倒した強運を見せてみろとな。その結果がこれだ」
再び回避行動を取る刹那のアバター。
だけど今回はそれだけではない。
スキル回避率UP【小】の発動からの刹那の攻撃ターン。
今回はこちらも攻撃にステータスを振っている。
故に相手の防御力を上回ったぶんのダメージを与えていく。
「へぇ~」
突然聞こえた育枝の言葉に刹那の背中が寒気を感じる。
刹那のアバターが二十二のダメージを与える。
残念ながら後一届かなかった。
だけどこれでようやく刹那がゲームの流れを掴んだ。
そう思った時だった、
先ほど感じた寒気は次第に悪寒となりすぐに実現してしまう。
「流石だね、でもスキルってのは魔法で百パーセントにすることもできるんだよ。だからその攻撃は私達の第二波となる」
お互いの攻撃が終わったタイミング。
それなのに再び攻撃態勢に入る育枝とさよのアバター。
「なっ!?」
スキルのやり返し。
刹那の思考を読み切った育枝は第四ターンが始まると同時にさよに確率を変える魔法を使うように指示していた。その為、本来であれば十パーセントの確率で発動するスキルが百パーセントの確率で効果が適用される。
故にカウンターUP【小】が刹那からの攻撃を仕掛け(トリガー)として発動したのだ。
「これで終わりだよ」
「…………」
「凄い……これが育枝さんの力」
「ここまでか。クソッ……」
つい舌打ちをする刹那。
読み合いにおいて相手の考えを正しく推測し対抗する。
勝負の世界においては定石とも呼べるだろう。
そして、ついに決着の刻。
育枝とさよのアバターによる二回目の攻撃が刹那のアバターを真っ二つにするため頭上にあげた剣を勢いよく振り下ろしてくる。
もう刹那に残された手はない。
打てる手は戦闘ターンが始まる前に全て打ったからだ。
「チェックメイト」
ドン!!!
大きな音がフィールドから聞こえてきた。
フィールドは土埃がしており、よく見えない。
だけど、音の正体は今さら確認しなくてもわかる。
剣が振り下ろされ、地面に叩きつけられた音だ。
「勝ったぁ!!!」
両手を上にあげ喜ぶさよ。
だけど育枝の表情は険しい。
そんな少女の視線の先にあるのは『戦闘中』という文字列。
「まだ終わってない?」
その言葉に一人ぬか喜びしたさよが冷静に戻る。
「え?」
「悪いな、スキルの重複使用良い手だ。だが今日の俺は本当に強運らしいぜ」
剣が振り下ろされ巻き上げられた土煙が晴れ、そこに立っていたのは刹那のアバター。身体を捻りギリギリの角度で顔色一つ変えずに刹那のアバターは立っている。
「今回俺はスキルを二つ使った。その一つが回避率UP【小】。そしてもう一つも回避率UP【小】。つまり最大二回の攻撃を回避する手を用意していたと言うわけさ」
「初手の回避率を重複であげるのではなく、最初から二回発動する前提として使われた? だとしたら刹那さんはわかっていたのですか?」
「なにを?」
「私達の一手が」
「いんや。ただその可能性が一番高いと思っただけ。それに時の運が大きく絡むとは言え、回避さえしていればどんな凄い魔法を使われてもこのターン負けることはないと踏んだ。ただそれだけだよ」
育枝とさよの方が圧倒的有利かと思われた場面でのHPゲージ逆転これは刹那にとって大きかった。ただし、スキルと防御力にステータスを多く振り分けていた為に最大のチャンスを活かすことができなかった。だがこれでお互いに射程圏内であることから本当にいつ勝負がついても可笑しくなくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます