第12話 イカサマと魔法の勝負


 そして始まる本当の勝負――第三ターンが始まった。


 刹那がグラサイ、何も知らない育枝がプレシジョン・ダイスをフィールドの中へと投げる。刹那は育枝が先ほどのようにさよに頼み魔法を使って妨害して来ても良いようにとわざとフィールドの中心部ではなく外側に向かって投げた。それも指先でギリギリまで微調整してだ。


 正にイカサマと魔法の勝負。


 二つダイスがフィールド中央ですれ違い、コロコロと音を鳴らし転がっていく。


 今の二人に油断はない。


 しばらくするとダイスの動きが遅くなり止まる。


「「………………」」


 刹那と育枝はお互いに相手の出目を確認すると、無言のままステータス振り分けに入った。

 今までと違う緊張感にさよは静かに見守る事にする。

 この結果がどうなるのかを。

 私の使った魔法がどう影響を与えるのか、そう思いながら。


 剣を持ち戦う二人のアバターにここで変化が起きる。


「ウォォォォォォ!!!」


 スキルを使用された事により雄たけびをあげ、気合い十分の育枝のアバター。


「流石に三回連続百ではないがどう振り分けてきた」


「何度も同じ手を使う者は二流だからね」


「一理あるな」


「さてさて、刹那はどう出たのかな?」


 火花散らしぶつかり合う二体のアバター。


 フィールド上空には『判定中』と表示され、この勝負結果がお互いのステータスの振り分け結果を現すことになる。


「…………」


「……さて、どうくるかな」


 その時、フィールドで戦うアバターに変化が現れる。

 刹那のアバターが育枝のアバターの攻撃を躱し始めたのだ。

 それから隙を見て反撃に移る。


「やっぱり」


 微笑む刹那。

 そして確信する。

 スキルの重複使用は何の問題がないのだと。

 先ほどの振り分けはスキルに六十、防御に二十七振りわけた。

 スキルは回避率UP【小】とカウンターUP【小】。

 残念ながらカウンターUP【小】は発動しなかったが、出目九十五を出した育枝の有利に思われた戦局を一瞬で元に戻した刹那。指先によるダイス操作とグラサイによるコンビネーションは完璧だった。間違いなく九十以上の出目が出るようにイカサマをした。だけど出なかった。つまり相手の出目を妨害する魔法を育枝がさよにお願いし使った事は明白。だけど確率と言う世界での純粋な勝負はどうやら刹那の勝ちのようだ。


「攻撃と防御に振り分けさらにスキルの使用なかなか面白いことしてたみたいだが、残念ながら全部不発だったな」


 舌打ちする育枝。


「いじわる」


「お兄ちゃんとして妹に簡単に負けたとあっちゃ威厳がないからな」


 ドヤ顔の刹那。


「ふ~ん。威厳ねぇ~」


「な、なんだよ?」


「べつにぃ~」


 なんか怪しいぞと言いたげな視線を向けてくる育枝。


「ここで一つ質問。私相手じゃなかったら後数ターンで余裕で勝てる?」


「可能だろうな」


「なら次のターンこっちも本気で行くから、刹那も本気で来なよ。ちょっと試したい事もあるからイカサマ使っていいからさ。ただしこの勝負はそれでもさよちゃんが勝つと思うけどね」


「面白い。その勝負受けてやる」


 育枝の提案に乗る刹那。

 だけどこの時、刹那の手は異常なまでに手汗をかいていた。

 育枝のあの自信を見る限り、ハッタリには見えない。

 つまり向こうにはまだ奥の手があるらしい。

 鈍らも剣の達人が使えば凡人が使う剣より切れ味がよくなる。

 それと一緒で魔法も心理戦を仕掛け、使うべきタイミングで使うべき魔法を使う事で弱い魔法が圧倒的に強くなり刹那が今まで積み上げてきた物を破壊する力になるかもしれない。それは刹那自身の存在意義を失うことと同然。だからこそ負けるわけにはいかない。緊張で鳥肌が立ち、額には一滴の汗が滴り、喉まで渇いてきた。これが最強の相方が敵になった瞬間。身体が武者震いまで始めるこの感覚いつ振りだろうか。


「面白い、育枝の裏をかいて必ず勝つ」


 ボソッと呟き、自分に強く言い聞かせる刹那。

 それから深呼吸を一度して心を落ち着かせる。

 ――頭はクールに、心は熱く。


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