第11話 全ては偶然


 すると耳元で囁くようにして刹那に聞こえない小声でゴニョニョと二人が話しあう。

 少し待ち、タイミングを見てから言う。


「行くぜ?」


 コクりと頷くさよ。

 育枝とは違い緊張に顔が支配されている。

 だけど油断はできない。

 相手は魔法を使うことができるのだ。

 それに魔力がなくなれば使えないとは言うがそもそも魔力を感知できない刹那では相手の魔力が後どれくらい残っていて何回魔法が使えるかすらもわからない。


「行きます!」


 声を上げ、気合いをいれたさよの手から離れて行くダイス。

 またしても嫌な予感がする。


 そう思った刹那はダイスを手から離す直前指先を少し引っ掛けて空中での回転数を増やしダイスの出目を操作する。

 突然の事だったために指先のかかりが多少甘かった。

 表情に出せば一瞬で見破られると思い、ポーカーフェイスを決め込んでいるが内心はハラハラドキドキである。


 コロコロと音を鳴らすダイスを観察する。


「ん?」


 その時だった。

 ほんのわずかにさよの投げたダイスがほんの一瞬妙な動きをした。

 そして急に方向を変え、刹那のダイスに向かって転がっていきぶつかった。

 この瞬間、刹那は確信した。

 一言に魔法と言っても色々あるのだと。

 出目を操作する魔法、ダイス同士を意図的に衝突させて妨害する魔法……など。

 ただし魔法が扱えない者でもこうして集中して見ていれば見破れる可能性がある魔法もあると言うことがわかった。

 後は魔法の効果だがこればかりは事実を確認しながら推測していくに限られる。


「その感じ、気付いたの?」


 突き刺すような瞳で問う、育枝。


「…………」


「まぁ、いいや。さーてどうしようかな、今回は」


 不吉な予感がする刹那を置いて、さよが出た目を確認してアバターにステータスを振り分けていく。


「妨害は厄介だな」


 こうなると技術介入をしても意味をなくす。

 舌打ちをしながらも手探りでステータスを振り分けていく刹那。


 相手の出目は六十九。

 対してこちらの出目は五十一。

 僅かに足りないこの差がどうでるか、それを踏まえて慎重に振り分ける。


 攻撃力……十七

 防御力……四

 スキル……回避率UP【小】


 今回は相手の方が出目が大きいので無理しない方針でいく。


 相手の作戦が読めないうちの無茶は無謀と言ってもいいので、この場合さよではなく育枝の狙いを考えてみる。

 その結果、防御力にもステータスをしっかりと振り分ける形となった。

 お互いにステータスを振り終わると自動的にゲームが進行し、二回目の戦闘ターンが始まる。


 しばらくすると、空中の文字が一つは『敗北』と一つは『勝利』と表示され、刹那のHPゲージが二十五減り育枝のHPゲージが七減る。その後アバターがそれぞれのプレイヤーである刹那とさよの元へと戻っていく。


「残念だったね。確率論の世界で言うなら効果が発動しない確率の方が大きいからね」


「その割には警戒してそっちも防御に振ったみたいだな?」


「常に余力を残しておくのが『ダイスゲーム』の基本ですから」


 その言葉に鼻で笑ってしまう刹那。

 言葉には出してこなかったがさっきの出目の結果から使われていない三十ポイントは間違いなく発動こそしなかったがスキルに使われていたことは結果から簡単に推測出来る。つまり向こうは魔法を使い無茶をすることなく、こちらが起死回生の全振りをしても死なないような安全圏(保険をかけたうえ)での勝負を仕掛けて来ているのだろう。そう思うと何もかもが刹那の不利となる。そこで刹那は育枝とさよがゴニョニョと話している間に予備のダイスをもう一つポケットから取り出し、自身のダイスを回収と同時に入れ替える。その早業に育枝とさよは気付かない。見た目はそっくりそのままで中の重心だけが移動したグラサイ。これがどこまで通用するか、良い機会なので試しておくことにした。


 ――バレなければ全ては偶然


 その一言で片付けられる。

 騙す方が悪いんじゃなくて騙される方が悪い。

 そんな言葉が刹那達の住む世界にはあった。

 まさにその通りだと思う。

 弱者は強者に負け、強者の支配を受けなければならない。

 そして弱者が衰弱すると強者は簡単に見切りをつけ捨てる。

 そんな世界で刹那が家族を護る為に手に入れた力――イカサマは数多くあり、その数はイカサマと技術介入を合わせれば百を超える。


「ったく、お兄ちゃん相手に容赦がない妹だ。かかってこい、ここからは本気で相手してやるよ」


 その言葉に反応するようにして作戦会議を終えた育枝がほほ笑む。


「上等。かかっておいで、お・に・い・ち・ゃ・ん」


 余裕の笑みをこぼす二人を目の前で見たさよは思わず息を飲み込む。

 それだけ二人の無言の圧と言うべきか、目に見えない力が急に凄くなったのだ。


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