第10話 開始のGONGは鳴り響いた


 刹那が所定の位置に付くとふとっ思う事があった。

 それは外でするよりかは色々と規格が小さいことだ。

 室内それも客室の中だと考えれば納得はできるわけだがやっぱり小さいと思ってしまった。

 ただし外見は目囮するが、ルールが変わったりするわけではないので問題はない。ただ個人的にダイスを転がすスペースが狭く振りにくいという点が問題だったが、ここは設備的な部分なので我慢することにした。


「先に言っておくけどこっちはさよちゃんの魔法ありで当然相談もありでいいよね?」


「あぁ。チームだしな。ただし長々相談されても待ちくたびれるから制限時間は一ターンに付き二分までな?」


「はーい!」


 元気よく返事をするさよ。

 少し時間を与えすぎな気もしたが、当然負ける気がない刹那は多めに見る事にする。


「ダイスはお互いが持っている百面ダイス。一応イカサマはなしだと言っておくね。私も刹那もお互いの事理解しているからその辺は大丈夫だと思うけど、もし途中でイカサマが発覚した場合はその場で発覚された方の負け。いいね?」


「わかった。イカサマはなしだな?」


「うん。イカサマはね」


 お互いに特定の単語を強調し合う。

 そこになんの意味があるかが全く持ってわからないさよ。

 だけど刹那と育枝の間ではこれだけ強調すれば口数が少なくてもお互いが何を言いたいかを理解出来てしまう。

 イカサマを熟知した相手に見え透いた手は使えない。

 つまり如何に偶然の中にイカサマを入れていくか、もしくは技術介入で対抗するか、これが勝負の要になると刹那と育枝は各々考えていた。

 簡単な話し、例えばだが同じ出目が二回、三回続く事は稀にあっても五十回連続とかは普通常識的に考えて出ないだろうと言う事である。勿論確率論の世界で考えるならそれが起こりえる可能性は零ではないが、それでも普通に考えればまずでない。


「スキルはこの世界の基本スキルだけでいいかな?」


「あぁ」


 刹那はこの街に入ってすぐ見つけた街のガイドブックの内容を思い出す。

 そこには街の案内図だけでなく『ダイスゲーム』の基本的な考え方ややり方が書かれていた。


 『ダイスゲーム』の基本的なスキルは以下の通りである。


 攻撃力UP【小】……効果:攻撃力を一・五倍に上昇。発動に必要な出目(ポイント)三十。


 防御力UP【小】……効果:防御力を一・五倍に上昇。発動に必要な出目(ポイント)三十。


 回避率UP【小】……効果:相手の攻撃時に十五パーセントの確率で発動。発動時相手の攻撃を躱しダメージを零にする。発動に必要な出目(ポイント)三十。


 カウンターUP【小】……効果:カウンター発生確率十パーセント。ダメージを受けた時、自分の攻撃力の一割のダメージを相手に与える。発動に必要な出目(ポイント)三十。


 魔法攻撃【小】……効果:攻撃力を二倍に上昇。発動に必要な出目(ポイント)四十。一回のゲームにつき三回まで使用可能。


 魔法防御【小】……効果:防御力を二倍に上昇。発動に必要な出目(ポイント)四十。一回のゲームにつき三回まで使用可能。


 回復【小】……効果:戦闘ターン開始時にHPを使用した出目(ポイント分)の半分回復。発動に必要な出目(ポイント)十~二十で任意の数値。ただし端数は切り捨て。一回のゲームにつき三回まで使用可能。


 の七つである。

 どれも単体では大した効果はなく、あくまで出目の補助的な役割しか持たないが基本的なスキルと言われるだけあって使いどころによってはかなり便利が良い。これ以外のスキルを使用するにはRPGゲームで言うところのスキルを取り扱うお店に行き、そこでお金を払って買わなくてはいけないのだが、二人はまだこの世界に来て無一文なのでこの世界のお金は一円もないわけで当然これ以外のスキルを持っていない。


「ちなみに初期HPは幾つにする?」


「そうだね~」


 育枝が腕を組んで考える。

 ここで大きな数字にして無駄に長く戦うと今日一日が潰れてしまうかもしれない。

 それはどうにか避けたい刹那と育枝。


「ねー、さよちゃん?」


「なんでしょう?」


「手軽にするって考えた時に、HPはどれくらいがちょうどいいと思う?」


「なら三十にしてみてはいかがでしょうか? それでしたらすぐに終わりますしなにより短い勝負になる可能性が高いことから運も必要になってきます。言い方を変えればたった一回の些細なミスでも致命傷になることがありますので緊張感がある戦いと時間効率を考えるならばちょうどいいかと」


 この言葉を聞いた刹那は「アリス様を倒したのならお二人共強運をもっているのですよね?」とさよは遠まわしに言っているのか、と内心思ったが余計な口を挟んでせっかくまとまりかけていた話しが脱線しても嫌なので黙っておく事にする。それに表情からなんとなく育枝もその事には気付いているようだったので、実力を見せて納得させると言う意味では他に他意がないのであればいいのかもしれない。


「なるほど。確かにそれでダイスの面が百面なら最速ワンキルもありえると……いいねぇ。私はそれでいいと思う」


「俺もそれで構わない」


「ならやりますか!」


「あぁ! いざ、勝負開始!」


 その言葉に反応して『ダイスゲーム』のフィールドに【勝負開始】と大きな文字が出現する。


 刹那と育枝はそれぞれポケットからプレシジョン・ダイス(精密百面ダイス)を取り出して魔法で作られたフィールドへと投げる。

 まずは育枝から来るのかと相手を観察する刹那。

 だがそれは向こうも同じ。

 さっきまで可愛かった育枝の真剣な表情。

 なにより些細な事でも見逃さないと言いたげな真っすぐな瞳が恐ろしかった。

 育枝の綺麗な瞳には真剣顔の刹那が映っている。


「最初から本気か……」


 ボソッと呟き、視線を転がるダイス二つに移す。

 刹那のイカサマや技術介入に対して育枝の観察眼は天敵みたいなものだ。

 なので下手に使うとそこをつけこまれて負けてしまう可能性も考慮していかなければならない。もっと言えば駆け引きが重要になってくるわけだ。


「お二人共凄い集中力。特に刹那さんはさっきの試合以上。って事はアリス様を倒したって言うのは本当なのかしら」


 まだ半信半疑で疑いの目を向けるさよ。


 二つのダイス――プレシジョン・ダイスがフィールド中央ですれ違い、コロコロと音を鳴らし転がっていく。


 その様子を黙って見守る刹那と育枝。


 ダイスが止まると同時に「ふぅ~ん」ととても小さい声で呟く育枝。


「なるほど、そうきたか」


 同時にニヤッと微笑む刹那。


「なんのことだ?」


 確率論では零ではない。

 つまり万に一つ起こる可能性があるわけだ。


「お互いに出目が百。偶然にしては凄いよね?」


「そうだな」


 偶然にしては確かに凄いと思う。

 だがこれは本当に偶然なのかと言われればそうは思えない。

 なぜなら育枝は勝負の前にちゃんと「さよちゃんの魔法あり」と宣言している。

 そして刹那には確信めいたことがある。

 それは外で対戦した時と同じくやけに出だしから相手の出目が良い事である。

 つまり全く予備動作や仕草はなしで既に魔法が使われている。

 そう考えられずにはいられなかった。

 ただの技術介入だけではいつ来るかわからない魔法に上手く対抗できない。

 そう考えると相手が相手だけに非常に厄介だった。


「魔法使った?」


「さぁ~ね?」


 とぼける育枝。

 ため息をついてから刹那は手元のタッチパネルを使い、出目(ポイント)をアバターに振り分けていく。


 初めてのゲームにも関わらず落ち着いている育枝。


 そんな育枝に畏怖すら覚えてしまう。

 いつも隣にいる育枝。

 味方なら隣にいてくれるだけでとても心強い。

 だけど――。


「敵になるとこれ以上面倒な相手はいないな」


「終わったよ」


「俺もだ」


「なら戦闘ターンに入るよ」


 刹那が頷くと、戦闘ターンへと進んでいく。


「私の分身お願い! 刹那を倒して!」


「返り討ちにしろ!」


 剣を持ち戦う二人のアバター。

 アバターの持つ武器なども所有者がお金で買い変更できるわけだが二人のアバターが持っているのは何の効果も持たない形だけの剣。だけど火花散らしぶつかり合う二体のアバター。


 フィールド上空には『判定中』と表示され、この勝負結果がお互いのステータスの振り分け結果を現すことになる。


「どうなる」


「嫌な予感がする」


 しばらくすると、空中の文字が『ドロー』と表示され、お互いのHPゲージに変化なしで召喚獣がそれぞれのプレイヤーの元へと戻っていく。


「攻撃に六十、 魔法攻撃【小】に四十、全く同じ振り分け!?」


 驚き声をあげたのは、育枝の隣で様子を見守っていたさよ。


「攻撃こそ最大の防御。なにより初手ダメージはゲームの均衡を崩し流れを作る。まぁ定石通りだけど、魔法がない刹那が最初からここまで強気で来るとは思わなかった。貴重なスキル回数を早くも一回使っちゃったけど大丈夫なの?」


 刹那の表情が僅かにひきづった。


「ったく、本当に初心者かって言うぐらいに人様の観察とは嫌らしい妹だ。心理戦では分が悪いしノーコメントで」


「ふぅ~ん。なら次はさよちゃんに変わるね」


 第一ターンを終えた事で空中の文字が『第二ターン』と切り替わる。

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