第9話 始まる試合 刹那VS育枝&さよ
「早速ですが先の試合でなぜ魔法も使えない刹那さんが涼しい顔をしたまま勝てたのかを教えてくれませんか? あれは異常です。魔法が使えない人間が魔法を使える相手を圧倒、そんなの伝説の異世界人クラスの所業です」
その言葉を聞いた刹那は露骨に嫌そうな顔をして育枝に視線を向ける。
しかし逆に答えないの? と言いたげな眼差しを向けれてしまった。
これでは説明役を自分がしないといけない。
そもそも刹那は気付くのが遅れた。
純粋な眼差しの奥深くに隠された真意。
その正体に。
これも妹の狙い通り、そう思いここは妹の口車にのせられておくことにする。
「その伝説の異世界人とやらがたまたま俺達と同じ……いや逆か。伝説の異世界人とやらと対等な力をもった新たな異世界人が俺達だった。そう言えば少しは理解できるか?」
その言葉にあるのは棘。
相手を納得させるのではなく、攻撃的な言葉。
育枝のようにいつも余裕の表情を見せ、お気楽でいられる程まだ刹那に心の余裕はない。この世界ではなんたって自分達が感知できない魔法が当たり前のように使われているのだから。
「いえ……」
首を横に振るさよ。
「そもそも相手はダイスの目を四十以上に出来る魔法を使い毎ターン有利に事を運んでいました。それに対して刹那さんは魔法なしで毎ターン六十、七十……あれ、……」
口ごもり何かに気付いた様子のさよ。
「やっと気付いたか。この世界ではダイスは魔法と相性が良い物を自分で見つけるか作りゲームに持ち込むことが出来る。その裏を返せばダイスは何でもいいってわけだ。そして魔法が当たり前の世界でイカサマダイスは当然知識がある者じゃないと見破れない。つまりはそうゆうことだろう?」
刹那が特別にチューニングした特定の出目が出やすいグラサイを懐が取り出して手のひらで回転させて見せつける。これはダイスの中の重心を意図的にずらし、目の配置をずらすことで成り立っている。実際に持ってみれば違和感にすぐに気付くが、見ただけでは分からないように細工もしてある。一般人がサイコロの表と裏の数字を常日頃から意識して見ているわけもなく、外見上最大にして唯一の違和感にも大抵の者は気付かない。仮に気付いても少し疑問に思う程度でそれ以上は何も思わないだろう。なんたってこの世界では魔法が当たり前になっており、魔法の影響を効率よく受けるダイスという認識で大抵は多くの者が自己解決するからだ。
実際刹那はそうなのを知っている。
この街に来る途中、道中で野良対戦を何個か遠目で見てその事実に気付いたのだ。
一言にダイスと言っても、色、形状、目の配置が違うダイスがこの世界には数多く存在していた。どれがどのような効果を持つかはサッパリだったが、それでもこれだけは確信していた。この世界において、イカサマこそが魔法に対抗できる唯一無二の存在であると。当然イカサマはグラサイを使う以外にも沢山あり、見破れるリスクは限りなく薄いと思われる。逆に刹那がアリスとの試合で使った技能(技術)はイカサマの下位互換的な存在で線引きするとグレーゾーンな気がしていた。
「……なるほど。イカサマをしたのですね?」
「そうだが。問題でも?」
これが当然のように臆することなく堂々とした態度で質問する刹那。
「やれやれ……」
対して、さよは首を横に振り小さくため息吐く。
「知らないのですか……イカサマは魔法とは違う手法。それはルール違反であり、相手がその理屈を証明すればその時点でゲームの優勢不利関係なしに負けになることを」
心配そうな表情で答えるさよ。
それを見た二人は少しの沈黙を持って見つめ合う。
「……だそうだ?」
「……それで?」
「どうする?」
「愚問だね」
「それもそうだな」
兄妹の会話はこれで終わりを迎えた。
いったいなにがと言いたげな表情を向けるさよに刹那が言う。
「あー、それなら問題ない。俺達の中じゃ日常茶飯事だからな。それにこっちはリアルの命を毎日賭けて裏の世界で戦ってたんだ。見破れるならどうぞご自由にだ。ただし――」
「ん?」
「イカサマなしでもアリスとか言う神の一柱よりかは強いけどな」
「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」
今までどこか大人しなかったさよが大声をあげた。
思わず刹那と育枝の二人は耳に両手をあてる。
「嘘です! アリス様はこの世界で五本の指に入るとされるお方です。そんな本物の神様相手に勝つだなんてありえません!」
「確かに、そう言われれば……アイツ強かったな」
何かを思い出したようにボソッと呟く刹那。
「でもお互いにイーブンの勝負で向こうは魔法なしでこちらはイカサマなしだったな」
「そ、それでもありえません! アリス様の運は強運と世間で呼ばれており、魔法なしの勝負でも勝てる者など両手の指で足りるとされているのですよ!?」
「……両手の指?」
「そうです!」
「「意外に多い……」」
素直な感想が口から零れてしまう刹那と育枝。
その為か、遠まわしとは言え褒められているはずなのにあまり嬉しい気持ちになれない。
そもそも本当に褒められているのだろうか。
刹那がそんな事を心の中で思っていると。
「もしそれが本当だというならここで証明してください」
「どうやって?」
「こちらが用意したダイスを使い私と『ダイスゲーム』をして勝ってください。当然私は魔法を使います。ですが、もし刹那さんが私に勝つことができれば認めます。刹那さんが何もイカサマなしでアリス様に勝ったというお話しを」
「そんなの断るに決まってるだろ?」
「な、なんでですか!?」
「当たり前。俺は自分にメリットがないと動かない人間。リスクを背負うからこそ闘争心が燃える。それがないならする意味があまりないだろ?」
ゲームと言う闘いに刺激を求める刹那。
その言い分には納得なのか育枝も隣で「うん、うん、そうだよね」と小声で言いながら首を縦に動かす。
ゲームを楽しむ、それは間違っていない。
だけど刹那の求めているのは勝つか負けるかの刺激を超えた先にある物。
つまりは限界ギリギリの駆け引きがあるゲーム。
それがないとなると刹那としても育枝としてもわざわざゲームをしようとする気持ちにすらなれない。もっと言えば人の感情や行動にとても敏感で相手の心理状態や考えている事を見極める目を持っている育枝は尚の事。
「うぅ……それはそうかもしれませんが……」
「逆に聞くがお前はさっきの試合(ゲーム)なんの為に戦った?」
「それは……。わ、私が生まれ育ったこの想い出が沢山詰まった我が家を護る為です」
「だろ? 死んでも護りたい。そう思ったからお前はさっきの『ダイスゲーム』で最後まで諦めずに頑張った。その気迫で今俺に向かってこれるか?」
「そ、それは……」
言葉が詰まるさよ。
当然だろう。
勝っても負けても別に何の影響もない試合(ゲーム)と負けたら大切な物を失う試合(ゲーム)ここでは『ダイスゲーム』に対する気迫が少なからず変わってくる。
別に刹那はさよをいじめているわけではない。
ただありのままの事実を口にしているだけなのだ。
「刺激が提供できない。賭ける物はなし。そうなるとだな、俺がわざわざお前の口車に乗る理由はないってことになる。ってことで悪いけど諦めてくれ」
「だったら……」
「ん?」
「だったらこうしようか。私がさよちゃんと組んで刹那と闘う。んで負けた方が勝った方の言う事を何でも一つ聞くってのはどうかな?」
ベッドから立ち上がり、さよの隣に行き身体を回転させて微笑む育枝。
「これなら私にもメリットがあるし、負けたらさよちゃんは可哀想だから私が刹那の言う事を何でも一つ聞いてあげる。でも負けたらどうなるかわかってるよね?」
「俺が何でも一つ言う事を聞く……と?」
「うん!」
天使に負けないぐらいに満面の笑みを浮かべる育枝。
その笑みが不気味なまでに清々しくて恐いとまで思える。
だが育枝とはこれからも長い付き合いになる以上刹那としては未来の事までを考えるとこれはこれで悪い条件ではないような気しかしない。当然異世界から元の世界に戻っても(義)兄妹として関わっていく以上育枝の事をよく知る……いやこの際男の些細な願望を叶えて貰うのも悪くないかもしれない。
ニヤリ。
ついつい口角が上がってしまう。
「いいぜ。二人まとめてかかって来な」
「いいね~。ならさよちゃんは私のアバター共有でダイスは交互に振る感じでチームを組むでいいかな?」
「は、はい。ありがとうございます」
「いいよ、いいよ。これはこれで私に得しかないからね」
「得ですか。よくわかりませんが、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
三人は立ち上がり、部屋の片隅にある『ダイスゲーム』のフィールドが置かれたテーブルに移動する。
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