第8話 さよとの出会い


 ■■■



 周囲から向けられる視線を無視して先程の親子がいるカウンターへと向かう二人。

 そのまま近くの席に二人横並びになって座り、用意された和菓子と珈琲を飲む。


「なぁ……一つ聞いてもいいか?」


「なんだ?」


「お前さん本当に俺達と同じ人間か?」


「違う。俺達とお前達は違う。どちらかと言えばお前達の劣化版が俺達だ。イメージとしては俺と育枝は魔法が使えない旧人類でお前達は魔法が使える新人類とでも言った方がわかりやすいだろうな」


「ならなんでさっきは圧勝で来たんだ?」


 その言葉に刹那ピクッと反応する。

 男の言葉に周囲にいた者達も聞き耳を立てているように見える。

 よほど気になるらしい。

 だけどここで全ての手の内を明かし、後から苦労する気は毛頭ないので。


「ただの運だろ?」


 と、鼻で笑い答える刹那。


「そうだね、私達魔力を使った魔法は使えないもんね」


 隣から刹那のフォローをするは育枝。

 その言葉を聞いた者達は全員が全員「うん?」と首を傾けては近くにいる者達とボソボソと何かを話し始めた。

 他人に対してそこまで興味がない刹那と育枝は出された茶菓子を口に頬張りながら目的を確認していく。


「育枝?」


「なーに?」


「俺達の最終目的はアギルを倒し、元の世界に戻るで間違いないよな?」


「うん」


「ならその目的達成までの間の宿と食事がまず問題になる。それでいいか?」


 その言葉に育枝が少し考える。

 そして――。


「うん。ただし部屋は一つでダブルベッドで!」


「……なぜ?」


 すると、急に近づいた二つの顔。

 よく見ると育枝がテーブルに片腕をついて身体を乗り出している。


「むぅ~私だって女の子だし見知らぬ土地で恐いし寂しいの! たまには甘えてもいいじゃん! いつも甘えに行く度に素っ気なくされてイライラしてるの!」


「……はい」


 育枝の勢いに圧倒されて思わず頷いてしまう刹那。

 顔を近づけられた時は唇と唇が触れそうになり、言葉が言い終わると同時の首を少し引いての上目遣い、それにここまで言い寄られたら兄として答えないわけにはいかない。

 それに先程助けた黒髪でお人やかな雰囲気を纏い一見大人しそうな少女もなぜか育枝の意見に賛成なのか刹那の瞳を直視し熱い眼差しを送ってくると断るに断れない状況。


「わ、わかったから二人共その目を止めろ。それと……マスター? それで頼めるか? それが俺からの交渉だ」


 男が手招きして近くにいた娘を呼ぶ。


「俺は福永琢磨だ。そんでこいつが娘のさよ。俺の事は好きなように呼んでくれて構わない。なんたって二人は命の恩人だからな」


「さよです。先程は助けて頂きありがとうございます。このお礼は必ず致します」


「ん~さよちゃんはお礼はいいよ。ね、刹那?」


 まん丸とした育枝の目が刹那に力強く訴える。


「あぁ」


「ってことでこれからよろしくね、さよちゃんとたっくぅー。私は育枝、そんでこっちが兄の刹那だよ」


「交渉成立だな。さよ悪いが早速使ってない部屋に二人を案内してくれ。それと生活に必要な物はお店を護ってくれたお礼として援助したいと思っているから何かあれば俺でもいいしさよにでも言ってくれ。俺は基本店があるからここにいる。急ぎの時はここまで悪いけど来てもらえばと思う。刹那これで大丈夫か?」


「あぁ、感謝する」


「ありがとう、たっくぅー」


「いいってことよ!」


「ではお二人共こちらにどうぞ」


 刹那と育枝は立ち上がり、案内役のさよの背中を追いかけて店の奥へと歩いて行く。


 そこにある今は空き部屋となっている場所が今回二人に用意された部屋だった。

 まず扉を開けると金属の錆び油が切れかかった音が鳴り響く。

 しかし部屋の中は古びた扉とは裏腹に綺麗で広い。

 目視ではあるが、大きさは十二畳程度でダブルベッドが一つ壁際に置かれている。

 それ以外にも壁に一つ窓があり、その近くには木の椅子とテーブルもあり、二人で数日住むには文句なしの部屋だった。

 早速ベッドに腰を下ろす刹那と育枝。


「わぉ~、ふっかぁ~ふっかぁ~」


 満足顔の育枝を見た刹那の顔から笑みがこぼれる。


「そうだな」


「ご満足して頂けましたか?」


 二人の様子を伺いながらのさよ。


「うん! 私は満足だよ」


「俺もだ」


「それは良かったです。ところで一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「いいよ~。それなら立ち話も辛いだろうしそこに座りなよ」


「ありがとうございます」


 お礼を言ってから育枝が指さした椅子へと座るさよ。

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