第7話 刹那の実力と育枝の情報収集


「待って! 幾らなんでも無謀だよ! まずは情報を――」


 慌てて手を掴んで止める育枝。


「俺に敗北の二文字はない。あるのは勝利の二文字だ」


 スッと育枝の手を離して勝利宣言と一緒に不敵な笑みを浮かべた刹那。


「なんだ、もう勝ちの道筋が見えてたんだ……。あーあー心配して大損。だけどやっぱり刹那超カッコいいー」


 刹那の背中を見送った育枝はドキドキしていた。

 一体何を言っているのだろうか?

 周りから見たらそう思うのも当然。


「どう言う意味だ?」


「それは見てたらわかるよ。それより先に聞いてもいいかな?」


「なにを?」


「なんで魔力がない私達に賭けようと思ったの?」


 突如始まった勝負を見ながら男は言う。


「過去にもあるんだよ。お前さん達みたいな異世界人がひょっこと来ては世界のバランスを調整しにきたことがよ。魔力がない、魔法は使えない、なのに当時この国の暴君国王に一発ぎゃふんと言わせた伝説のダイス王と呼ばれる少年がな。だから……もしかしたらって思ったんだよ。同じような感じで今ここにいるお前さん達を見てな」


「ふーん」


 興味なさげに返事をし、『ダイスゲーム』の行方を見ながら育枝が問う。


「なら今の暴君国王はアギル?」


「あぁ」


「アギルに会う方法ってある?」


 その言葉に男の視線がまたしても信じられないような物を見たように大きく見開かれる。


「それは止めておいた方が……」


 育枝は落ち着いた様子で男をチラッと見て言う。


「あるの?」


「あぁ……」


「教えて」


 刹那が実践で何かを得ようとしている。

 試合を見ててそう感じた育枝は育枝で情報収集をする。


「アギルは大和の国ではよそ者扱いをされ支持率が悪い。そこでアギルは月に一度自分の力を誇示する為に見せしめとして大和の国で腕自慢かつ自分を良く思っていない奴を一人選び公開処刑をしているのさ。それが自分の支持率を下げるとは知らずに……本当に間抜けな奴だよ」


「そこまで支持率悪い……ならここで一つ疑問なんだけど、なんで力づくで抗議しないの?」


「それはダメなんだよ。世界の統一者と呼ばれる知性と理性を持ち、最強の力を持つと呼ばれる全知全能神が力による暴力を禁止しているからだ。もしすれば全知全能神によってその種族は滅ぼされるとされている。またゲームでイカサマをした奴も同じくこの世から消される。現に昔は七つあった種族も今では五つになっていたりと世界の全てを握るとされている全知全能神は暴力を嫌い余興を楽しむ性格の為、全種族が対等に戦い競いあえる『ダイスゲーム』を絶対としたからだ」


「こっちはこっちで神様が何人も具現化されている。全ては神のままってわけか。暴力もイカサマも魔法介入も……」


 そう言って、育枝はポケットからスマートフォンを取り出して写真を数枚取っていく。アバターの武器は剣だけでなく、相手のアバターから杖もある事がわかった。これは他にもあるのかと頭の片隅にいれておく。


「これはあくまで私の主観なんだけどね、……そんなフェアな戦いで負ける人間(表に近い存在)ってやっぱりこの世界(裏に近い存在)相手だと弱いんだね」


 育枝は世界の表裏が逆転しているみたいな感覚になりながら呟いた。


「……どう言う意味だ?」


「私達(裏)の世界では人が人を殺し騙し陥れる、それが当たり前。負ければ一夜にして人生が終わる。私とかは若いから人身売買に使われ一生誰かの奴隷や家畜になるかもしれない。そんな世界に比べたら命が保障されているだけマシだってこと。だからこの世界の弱腰連中じゃやっぱり刹那を止める事は出来ないだろうね。なんたって私の将来の旦那さんだからね☆」


 笑みを零し微笑んだ育枝。

 その視線の先では魔法を使う青髪少女を完封した刹那が立っている。

 勝負の最初から最後まで一切表情を崩さず、魔法というイカサマじみた手法を正面から打ち崩した刹那が育枝には物凄くカッコよく見えていた。


「え? あっ……マジ? ……うそだろ」


 圧倒的な力の差に観衆はおろか男までもが言葉に困った。

 さっきまで自分が苦戦し、結果負けてしまった娘に関しては、刹那の背中をジッ―と見て口をポカーンと開けたまま硬直している。


「ま、魔法使えなかったんじゃ……」


「使えないよ」


「ならなんで……圧勝?」


 手を震わせながら刹那に指を向けた男。


「なら聞くけど、なんで接戦を演じないといけないの?」


「はい?」


「神様がどうとかさっき言ってたけど、私達ダイスの神に敗北の二文字はないよ、おじさん」


「だ、ダイスの神?」


「そう。それが私達の世界での通り名だよ」


 帰ってきた刹那を見て、育枝はウキウキしながら出迎える。


「お帰りー刹那ー♪」


 そのまま胸に飛び込んで、顔をスリスリさせて甘えん坊さんになる育枝。

 対して刹那は「やれやれ」と甘えん坊さんとなった育枝の頭を撫でながら、


「とりあえずお茶と和菓子と休憩できる所用意してくれないか? 話しはそれからだ」


 男はすぐに頷き、刹那に言われた物の用意を始めた。



 二人きりになった刹那と育枝は誰にも聞こえないように小声で会話をする。


「どうだった?」


「全くわからん」


「その割には圧勝って……さてはイカサマしたね」


 左目ウインクをして同意を求めてくる育枝。

 確かに魔法有の相手に正々堂々戦っても勝てない。

 と言うか、そもそも刹那からしたら魔法がイカサマ。

 それでも余裕で勝てたのにはちゃんとした理由がある。

 育枝がいうとおり――イカサマをしたからだ。


 そうは言ってもグラサイと言う言葉以前にその存在を知らない者には絶対にわからないイカサマである。

 そして確信する。


「俺達の世界と同じでバレなければイカサマじゃなくただの運で通せるだろ?」


「あっ、ひどーい。でもそんな刹那も私好きだよ」

(私の勘ではそもそもそんな事する必要すらないけどね)


 軽い冗談みたいなノリで受け答える育枝を見て刹那が鼻で笑いながら、


「仮に発覚しても証明出来なければ俺達の住む世界(裏側の世界)とここも同じ、ってな」


「そうだね。とりあえずお店の中に入ろっか」


 刹那が頷くと育枝がもぞもぞと動き手を握ってきた。

 その手は少しひんやりとしていて気持ち良い。

 そんな事を思いながら、刹那は育枝と一緒にカフェの中へと入っていく。


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