第6話 救いの手を求める者



 セントラル大陸、大和の国の首都大和。

 赤道より少し北に存在し、北西から北東にかけて横長い大陸、その中でも中心地に存在する大和の国。

 街の中に入っていくと、そこには見慣れない光景が広がっていた。

 まず最初に目に入ってきたのはゲームに必要なアイテムや補助アイテムを売買している販売店で一年を通して常日頃から賑わっている商店街だった。商店街を抜ければ、人が生きていく中で必要な生活用品や食料品が市場に並んでいる。通行証のある者なら出入りが自由ということから市場と商店街には常に新しい物が沢山並んでいた。通行証も過去に犯罪履歴がなく、悪い事を考えていなければ簡単に発行してくれるので、ほぼ形だけの通行証となっている。当然刹那と育枝も検問で魔法を使った身体検査を受けた時にアリスの配慮かすんなりと問題なく通る事を許された。それと一緒に通行証が欲しいと頼むと三分程度で二人分作成してくれた。


 そんな都市でも今はアギルに支配された国となっている。

 商店街を抜け、少し郊外から離れた場所で刹那と育枝は一休みする事にした。

 街中ではやはり異国人は目立つのか周囲の目が気になった二人は逃げるようにしてここまでやってきたのだ。二人が今いるのは個人経営されているカフェの休憩所である。

 そこでは多くの観衆に囲まれ、ダイスゲームをしている少女達がいた。

 一人は黒髪でお人やかで一見大人しそうな少女。

 一人は青髪で少し目つきが厳しくとげとげしいオーラを放つ少女。

 二人を遠目で見てみるとどこか心の中が穏やかじゃないように感じられる。

 ゲームは均衡しているように見える。

 なのにどうして二人は何かに慌てているように感じられるのだろうか。

 疑問はさらに増える。

 なぜここまで均衡しているのか。

 盤面上空に出現した文字には十八ターンと表示されているのにも関わらず二人のHPゲージは殆ど減っていないのだ。


「なかなかやりますわね」


「そっちもね」


 二人の少女の視線は重なり、勝負は続いていく。

 カフェであることから室内は静かな雰囲気ではあるが、一歩でも外に出ればそこは後付けで併設されたであろうダイスゲーム会場。

 室内は静寂、外はお祭り騒ぎの観衆。

 扉一枚通るか通らないかで全然違う世界だなと思った。


 近くにあった観戦用の椅子に横並びで座る刹那と育枝。

 そこにやってきた一人の男。


「お前達……異世界人か?」


「そうだけど、なんでわかったの?」


「なんで? ってお嬢ちゃん知らないのか? 俺達ペンタゴンは全員魔力を持って生まれてくる。それを感知できないとなると異世界にいるペンタゴンしかありえないからだろ?」


 育枝の質問に男は首を傾げながら答える。

 どうやらこの世界では異世界人は珍しくないように思える。


「ふーん。それで私達に何の用?」


「ちょっと頼みが合ってな。俺はここのオーナーなんだが娘がこのままじゃ負けそうで困っている。そこで力を貸してくれないか?」


「先に言っておくけど私達魔法とか使えないよ?」


「へへっ」


 男は口角をあげて微笑む。


「異世界召喚っていうやつはな簡単には出来ないんだよ。するには沢山の魔力や凄い技術がいる。そこまでして何処の誰かはわからないがお前さん達を異世界から呼んだ。そう考えると一つの答えがでる」


「答え?」


「そうだ。お前さん達は何かしらの能力もしくは才能を持っているんじゃないかと。そこで俺は考えた。お前さん達の目は死んでいない。ならこの場で一番俺の願いを叶えてくれる可能性がある存在はお前さん達じゃないかと。もしこの後すぐに娘の仇を取ってくれたらお礼はしっかりとする。どうだ?」


「なんで娘さんが負けるってわかるの?」


「なんでって……ん? あーそうか、そうだったな。魔力がないから魔法を感知できないんだったな? 悪い、悪い。それはだな、娘の魔力が枯渇して底をつきようとしているのに対し向こうはまだまだ魔力が有り余っているからだ」


「魔法ってそんなに厄介なの?」


「あぁ。魔力がなくなれば魔法を使ってダイス操作ができなくなったりするからな。だからこの世界に住む俺達は魔力が先になくなった方が負けると思っている。実際殆どの試合がそうだ」


「ふ~ん。話し変えてなんで娘さんが負けたら困るの? なにか賭けて試合でもしてるの?」


「そ、それは……」


 育枝の真っ直ぐな眼差しが迷いが生まれた男の瞳を見通す。

 男は口ごもりながら育枝と娘を交互に見て。


「アギルの従者だよ……。ちょっとばかり諸事情で国に返済が数ヶ月遅れているせいで俺の店を今賭けて試合をしているんだが……別に店だけなら俺もこの際諦める。だけど娘の自由まで奪われる可能性があると思うと……」


 男は奥歯を噛みしめながら言った。

 いつの間にか握られた拳には力が入りブルブルと震えている。


 それを見た刹那はため息を小さく吐いて言う。


「いいぜ。助けてやるよ」


「えっ……刹那!?」


 その言葉に真っ先に驚く育枝。


「ほ、本当か!?」


 それに続くようにして男も驚いた。


「ただし報酬の件で相談があるんだが、交渉の余地は?」


「お、おう! ある、ある。全然あるぞ!」


 興奮が抑えられないのか、目を大きく見開いた男。


「育枝を野宿させるわけにはいかないし交渉は俺が勝ってからするでいいか? 別に先にしてもいいんだがそんな時間なさそうだしな」


 刹那の視線の先ではさっきまで均衡状態だったダイスゲームが終わりを迎えようとしていた。

 途中から大人しそうな少女が負けだした。

 その時ぐらいだろか。

 刹那は育枝と男の会話を聞きながらも二人の少女の試合展開を頭の中で分析を始めたのは。ただやっぱり見ただけじゃわからないことだらけなので普段ならしない人助けとやらをすることにした。刹那はまだ異世界転生とやらを心の中で完全に受け入れたわけではないが、生きてここを脱出する為にもまずはアギルに続く道を開拓していくことにする。


「問題はないが、俺にできる範囲でいいか?」


「当たり前だろ」


 刹那はそう言って一人歩き始める。

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