第4話 勝者の願いが叶う瞬間
――。
――――あれから。
第十三ターン目。
気付けば数十分いや体感にして一時間以上にも感じられた勝負の均衡が遂に崩れ始める。
刹那のプレシジョン・ダイス出目百。
攻撃力……七十
防御力……振り分けなし
スキル……三十
集中力の限界を感じた刹那は十三回目にして再び掴んだ最強の出目を持ってして最強の攻撃力で勝負する。
相手の出目は七十一。ここに来るまでにお互いに残りHPゲージは三十を切っていた。
刹那のアバターがスキル発動により「ウォォォォォォ!!!」と叫び気合を入れて突撃していく。対して金髪美女のアバターも負けじと交戦の構えを取る。
だが――。
今回は一方的だった。
刹那のアバターが魂の叫び声を発しながら金髪美女のアバターを倒していく。
そして――。
遂に。
その時がやって来る。
空中の文字が『勝者 刹那』と表示された。
ようやく手にした勝利に刹那が渾身のガッツポーズを決める。
「よっしゃー! 俺の勝ちだ!」
それから暫しの沈黙。
「「「――――――」」」
その後、育枝が安堵のため息をついてから刹那の元に駆け寄る。
「おめでとう、刹那!」
「おう。見守ってくれてありがとうな、育枝」
「うん。そこでちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」
「どうした?」
「刹那が勝ったじゃん。だからそこの自称神様に使うお願いの権利を私にくれないかな?」
その言葉に少し考える刹那。
「わかった。まぁ、育枝がしたいようにするといいさ」
一体何を企んでいるんだろう。
そう思いながらも刹那は頷く。
きっと育枝は育枝で何か閃いたのだろう。
「ありがとう! 大好き、刹那!」
そう言ってどさくさに紛れて頬っぺたにキスをする育枝。
突然のことに戸惑い困る刹那。
そんな刹那を見て、
「唇がよかったぁ~?」
もっとからかってみようと、冗談を言う育枝。
「…………」
言葉に詰まりついに黙ってしまった、刹那。
その沈黙を持ってして、二人の会話が中断される。
それから始まる、自称神様への交渉。
「私を異世界に連れて行ってよ。そんでその世界(人間の国)とやらを救ってあげるからさ」
軽い。
とても軽いノリ。
まるで冗談を言うかのような口調で呟く育枝。
その顔は、無邪気な子供のように純粋。
「…………」
警戒してか黙る、金髪美女。
突然の提案。
それに一言で例えるならば【異常】。
だからこそ返事に困っているように見える。
「なにが目的かしら? 条件は? ただってわけではないわよね?」
――ニヤリ。
微笑む育枝。
その瞳はただ前だけを見ていた。
針の穴を寸分たがわずに突き刺すように真っ直ぐ。
「流石にラッキーとはいかないかぁ……それはそうだよね。当然、条件はあるよ。だって世界(人間の国)を救ってあげるんだからね」
「……それで?」
「私からの条件はただ一つ。私が異世界に行っている間だけでいいから私達が今いる世界の時間を止めて欲しいの。それで世界(人間の国)を救ったら私がこっちの世界に戻る。そしたらまた時間の流れを戻して欲しいなーなんてね」
「……随分気前よく聞こえるけど、目的はなにかしら?」
「そんなの簡単。ただの気まぐれと私もしてみたいなーって言うゲームに対する好奇心かな。それに魔法が使える相手とかゲームや物語の中しかあり得ないと思ってたんだよね。それがもし現実に起きるなら死ぬまでに一度は体験するのも悪くないかなって。なにより、魔法があろうとなかろうと私達に負けはないからね、ね、刹那?」
そう言って、身体をクルリと回転させて、ニコッと柔らかく微笑む育枝。
その無邪気とも呼べる表情に一度頷く刹那。
「そうだな……うん?」
刹那が疑問に思った時にはもう遅かった。
慌てて、口を開くが育枝の方が早かった。
「ってわけで、おまけで刹那も連れていくから。私だけじゃなくて私達で行ってあげるよ♪」
(良し! これでデートフラグは完成っと♪)
口で言っている事と心の中で言っていることが一切噛み合っていない育枝。
だけど、これでいい。
育枝は最初から異世界とやらには興味がなかったのだから。
あるのはただ一つ。
いつも素っ気ない兄である刹那とどうお出掛けデートするかと言う一点。
それが叶うなら、極論「世界なんて物はどうでもいい」が育枝の本音である。
女子高生と言う事を考えれば、今はまさに恋に盲目とも言える年齢。
好きな人と一緒にいたい、好きな人と一緒に何かをしたい、好きな人と同じ時間を共有したい、そんな気持ちがたまたま今回は世界を救うという方向と一致しただけ。
そんな事を一切知らない金髪美女は首を傾けながらも、少し口ごもりながら答える。
「わ、わかったわ……ならお互いの望みを叶えるで間違いないかしら?」
「いいよー、金髪のお姉ちゃん」
「なら今から二人を私が住む世界へ移動させるわ。それと私の名前はアリスよ」
アリスが手のひらを二人に向けて、魔法の呪文のような物を唱えると二人の身体を青白い光が飲み込んでいく。
徐々に強くなる光に、二人は目を閉じる。
それから何も見えない何も聞こえない、そんな状況が数秒続き次に目を開けた時には別世界だと脳が認識できる場所へと移動していた。
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