第3話 『ダイスゲーム』開始


 刹那はポケットからプレシジョン・ダイス(精密百面ダイス)を取り出して魔法で作られたフィールドへと投げる。

 金髪美女は魔法でプレシジョン・ダイス(精密百面ダイス)を取り出して刹那と同じくフィールドへと投げる。


 二つのプレシジョン・ダイスがフィールド中央ですれ違い、コロコロと音を鳴らし転がっていく。

 その様子をじっくりと見て、なにか見落としがないかを確認していく刹那。

 そんな刹那を大きな欠伸をしながらチラッと見てから転がり続けるプレシジョン・ダイスに目を向ける育枝。それも何かの確認作業のように。まるで出目がわかっているかのように刹那のプレシジョン・ダイスを静かに見守る。

 それから刹那のプレシジョン・ダイスが止まると同時にニヤッと微笑んだ。

 そして金髪美女のプレシジョン・ダイスが止まると同時に「ふぅ~ん」ととても小さい声で呟いた。


「まじか……」


 と違和感を覚える刹那。

 だが確率論ではゼロではない。


「あら、お互いに出目が百ね。ならお互いに今からはステータス振り分けに入る。そっちも好きなステータスに合計値が百になるように任意で振ってちょうだい」


 コクりと頷く刹那。

 そのまま射抜くように鋭い視線を金髪美女に向けて『ダイスゲーム』の癖を見抜く事に集中する。そして辛うじて見えた相手の手の内。それをそのまま自分のアバターにも再現しある事象を確認しておく事にする。


「終わったぜ」


「なら今からは戦闘ターンよ。行きなさい、私の華麗なる分身」


「任せた」


 ダイスゲームのプレイヤーである二人の命令を聞き、ダイスの出目によって強化されたアバターが激しくぶつかり合う。アバターのぶつかり合う中、フィールド上空には『判定中』と表示され、この勝負結果がお互いのステータスの振り分け結果を現すことになる。


 しばらくすると、空中の文字が『ドロー』と表示され、お互いのHPゲージに変化なしでアバターがそれぞれのプレイヤー、刹那と金髪美女の元へと戻っていく。


 今度は空中の文字が『第二ターン』へと切り替わる。


「なるほど。このタイミングで全ステータスが元に戻るのか」


「そうゆうことよ。とりあえず流れは分かったかしら?」


「あぁ」


「なら次は手元見えないようにするから、ここからは真剣勝負よ」


 刹那は舌打ちした。

 まさかこちらが観察しているのを分かっていながら攻撃力と防御力にそれぞれ五十ずつステータスを振っていたとは思いにもよらなかったからだ。


「なるほど……そうゆうことか……」


 一人離れた所でポツリと呟く育枝。


 続いて第二ターン。

 二人がプレシジョン・ダイスをフィールドの中へと向けて投げる。


 再び二つのプレシジョン・ダイスがフィールド中央ですれ違い、コロコロと音を鳴らし転がっていく。


 今度はさっきと違う結果が出た。


 刹那のプレシジョン・ダイスの出目八十九。


 対して。


 金髪美女のプレシジョン・ダイスの出目四十二。


 これは大チャンスと確信する刹那と育枝。

 だが二人が微笑みアイコンタクトで密かに喜びを共有していると金髪美女が「あらま~」と呟いた。

 それも余裕の笑みを浮かべたまま。

 不気味過ぎる。

 これは罠? つい疑ってしまうような言葉に刹那の表情から喜びの笑みが消える。

 だけどこのチャンスを生かすに越したことはないと慎重にステータスを振り分けていく。


 攻撃力……四十七

 防御力……四十二

 スキル……振り分けなし


 と言った具合に。

 これで金髪美女が攻撃力に全振りしても刹那のHPゲージは減らない。

 相手の思考が読めない以上、まずは勝つことではなく負けない事に重点を置いていく。

 負けなければ、いつか必ず勝てるからだ。

 金髪美女もステータスを振り終わったタイミングで自動的にゲームが進行し、二回目の戦闘ターンが始まる。


 しばらくすると、空中の文字が今度は『勝利』と表示され、金髪美女のHPゲージが五減りアバターがそれぞれのプレイヤー、刹那と金髪美女の元へと戻っていく。


 相手がどのようにステータスを振り分けているかはわからないが、結果から大方推測ができる。今回は金髪美女のHPゲージが五しか減らなかったという事実からステータスを全部防御力に振っていたらしい。これはプレイヤーの性格が諸に出るゲームだなと刹那は思った。


「全振り防御……出目が低い時は無理なく防御……」


「そうゆうこと。このゲームは自身のHPゲージがゼロになるまで続けられるわ。HPゲージの減少をどこまで許容するか、そして相手にどうプレッシャーを与えるかがポイントよ。もっと言えば――」


 金髪美女の言葉を遮るようにして、


「出目の最高が百。だけど今回お互いに使える攻撃力UP【小】のスキルを上手く使えば出目が百の場合に限り最大百五のHPゲージを相手から削り取られる。つまり自分の出目が四以下かつ相手が百の場合に限り一瞬で勝負がつく。当然その逆も然りでそのリスクなど込みでプレイヤーは先を読み戦う、それがダイスゲームと言った所かな?」


 育枝が横やりを入れる。


「……そうよ」


「あら知らないの、自称神様? 私は観察に特化したプレイヤーで刹那はダイス操作と駆け引きに特化したプレイヤーってこと」


「……知ってるわよ。ただやっぱりそうなんだって思ってね」


「なにが?」


「……いえ、なんでもないわ。さぁ、続きをしましょう、刹那」


 刹那は僅かな指のかかりやその時のダイスの感覚である程度自分が意図した数字を出す事が可能である。それは繊細な手先の感覚や数え切れないダイスを振って得た経験があっての常時発動可能スキル(技能)でもある。

 それだけ集中してもプレシジョン・ダイスでは狙った出目を高確率で当てるだけで精一杯。言い方を変えれば顔には出さないが内心、低確率ではあるが数が少ない出目が出てしまうのではないかとドキドキしている。だけどそのドキドキがたまらない。だからゲームの世界から足を中々洗う事ができない。

 そんな義兄の緊張を感じ取り育枝は横やりを入れたのかもしれない。

 このまま慣れない環境で慣れないゲームに集中し続ければ疲労が溜まり、ただでさえ常人離れした出目を操ることが雑になってしまい負けてしまう可能性があったからだ。ましてや金髪美女のペースで全てが進められては元も子もない。だからそのペースを敢えて崩す事で微力ながら力を貸してくれたのかもしれない。


「そうだな」


 それからもダイスゲームは続いた。



 全神経を指先に集中して相手の熟知したゲームで戦う刹那。

 お互いの読みがぶつかり合い、中々大きな差は開かない。

 気付けば限界ギリギリの戦いに脳からアドレナリンやドーパミンが湧き水のように出て来ては刹那に信じられない力を与えてくれる。


 ――。


 ――――。


 金髪美女は魔法を自ら制限した事を後悔しているのか、ダイスゲームが進行していく度徐々に顔色が悪くなり始める。

 それを見た刹那はさらに集中し、じわじわと相手を追い詰めていく。

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