第2話 『ダイスゲーム』のルール
「ここは……」
「凄い……別世界って感じがする」
光が消え二人が目を開けると、そこはとても大きな空間だった。
前方には今は誰もいない玉座らしき物が一つあるだけ。
視線を全方向に向けるが、他には何も見当たらない。
下手に動けば迷子になる、そんな玉座らしきもの以外何も見当たらない空間は不気味だった。
それに視界も悪く数メートル先以上は見えないのでここが広いのか狭いのかもわからない。それが不気味さを更に際立てる。
「ちょ……フラグみたいなこと言うな、育枝」
「でも刹那に届いた手紙にも異世界へのなんちゃらかんちゃらって書いてなかったけ?」
育枝の言葉を聞いて、何かを思い出したかのようにズボンのポケットに入れて置いた招待状らしき手紙を取り出して再度中身を確認する刹那。
そこには不思議な内容のメッセージだけが書かれていた。
『異世界に住む我の挑戦を受けるなら今宵二十一時にだけ見ることができる赤き満月の光を直視せよ』
最初見た時は何の冗談かと思い、無視していた二人。
だけど手紙は二枚目へと続く。
『表の世界では無名、裏の世界では強者、ならば人外相手にはどうなのか? 興味はないか? ダイスの神と人の身で呼ばれた者達よ』
普通に考えてダイスの神とは刹那と育枝を指しているのは間違いない。
実際に二人は裏の世界ではそう呼ばれている。
ダイスを使ったゲームでは圧倒的で他の者の追随を許さない腕が確かにある。
だけど人外とは一体何を示しているのかが二人にはわからなかった。
「……私達異世界へに招待された? って考えたら面白そうだね」
どこか興味津々の育枝に刹那は小さくため息をついた。
元々育枝が興味すら示さなければこんな挑発に乗る気はなかったのだが、実際はこの手紙を鵜呑みにし、赤い満月をこの目で見てしまった。
そうなるとにわかに信じがたいが、人外相手がどんな奴なのか、そしてこの手紙を二人に送ってきた者はどんな者なのか気になる。念の為にポケットにいれておいたスマートフォンで現在地を確認するが電波が届かず県外。
「もしそうならどうする?」
「え? ダイスで勝負(喧嘩)を仕掛けてくるなら倒すよ♪」
満面の笑みでそれも自信満々に答える育枝。
そう、刹那は知っている。
基本傍観者を決め込んでいる育枝もまた自分とは違うプレイスタイルの強者であることを。そんな育枝がそこまで言うなら、とこの際考えを改める事にする。
本当はサクッとこのバカげた手紙を送ってきた者を倒して仕事を終わらせる予定だったが育枝の気が済むまでは付き合う事にした。
「それにしても妙に静かだな」
「そうだね」
辺り一面をもう一度見てみるが、見えるのは玉座らしき物ただ一つ。
これは閉じ込められた、と警戒するがそんな様子も気配もない。
ならもうゲームは始まっているのかと思い、刹那が警戒しながら足を動かすと同時に育枝がすぐに手を握り首を横に振る。
「……ん?」
「罠の可能性は?」
刹那は玉座らしき物と育枝を交互に何度か見て答える。
「さぁ? でもそれしか手がないなら行くしかないだろ?」
「……わかった」
育枝が頷き、握っていた手を離す。
それから二人はこの暗闇の空間で唯一の手がかりである物を確かめる為に足を進める。
後、数歩。
二人がそう感じた瞬間、玉座の上から地球では見慣れない白い魔法陣が出現しその中から羽が生えた金髪美女が一人ゆっくりと降りてきた。
「初めまして、刹那、育枝……いえダイスの神。ここに来てくれて嬉しく思うわ」
金髪美女はニコッと微笑み挨拶をしてきた。
「初めまして。まず確認だがなぜ俺達二人がダイスの神と呼ばれている事を知っている? これは裏の人間しか知らないし、俺達二人での通り名は一部の者しか知らないはずだがどうしてそれを知っている?」
「全て見ていたから、と返答するわ。ほらこんな感じで」
金髪美女はそう言うと宙に指で円を描く。
そのまま指でなぞった軌跡の内側が別の時間軸と繋がり、刹那と育枝がここに来るまでの様子が映し出される。
イメージとしてはカメラの録画映像を見せられている、そんな感じ。
これには刹那と育枝も驚いて、ついお互いの顔を見て助けを求めるが脳が理解に苦しみすぐに答えが出てこない。
これは一体どうゆう原理なのかがサッパリわからないのだ。
「これは魔法。と言っても地球では存在しない類のもので、地球では物語とかに出てくる架空の力と言った方がわかりやすいかしらね。だけど私が住む世界では魔法は当たり前。簡単に言うならそちらの世界で言う神の奇跡とでも言えば少しは納得してもらえるかしら?」
「……まぁ見たしな」
「……信じるけど」
「「……アンタ人間???」」
「違うわよ。私は神の一柱よ。と言っても地球とは別の世界。つまりはそちらから見て異世界の神様をしている者よ。そこで早速なんだけど、どうかしら私達の世界に来てダイスで勝負してみない?」
正体不明の相手からの挑戦状に刹那は育枝の前に立ちふさがるようにして立つ。
この場は大人しく情報収集に専念する為、さり気なく一歩下がり邪魔にならないようにする育枝。
「俺達にこの招待状を送ったのはアンタか?」
「そうよ。ふふっ、普段使わない『我』とか使って恰好よく書いてみたんだけどそれ持っているって事は気に入ってくれたってことかしら。だとしたら私嬉しいわ」
「なら話しは早い。俺とこの場で勝負しろ、勝負内容は任せる」
「それなら私はいいけど、『ダイスゲーム』のルールも知らない刹那が私に勝てるとでも?」
「ルールさえ教えてくれれば問題ない。後はコイツがなんとかしてくれる」
刹那はポケットから一つのダイスを取り出して指で弾き不敵な笑みを浮かべる。
その笑みは恐怖ではなくダイスを使ったゲームと言う駆け引きを楽しんでいる笑み。
そして今刹那が手に持っているダイスはグラサイでわざと重心を偏らせて特定の目が出やすいようにした物である。
故に出目が影響するゲームなら刹那に必然的に有利になる。
なにより念の為にと思い、ポケットに忍ばせているダイスはこれだけじゃないので、準備に抜かりはない。
「神様かなんだか知らないけど、俺達に喧嘩を売ったこと後悔させてやる」
「ならこんなのはどうかしら? 私が負けたら刹那の言う事を私の叶えられる範囲で聞く。逆に負けたら私達の世界に来て悪い従者に奪われた人間の国を取り返して欲しいの」
「自分で助けない理由は?」
「私にも私の国がある。だから下手に動くと他国の目が面倒なのよ。でも人間の国を奪った奴が私の国の裏切者でね……実は色々と困っているのよ。ここまで言えばもうわかるわね?」
「あぁ。邪魔者を消す為に俺達を異世界人として呼び不要になったら元の世界に戻す。なによりここまで話すってことはつまりもう俺に勝ったつもりでいるってことだろ?」
「半分正解よ。ならゲームをはじめましょうか、ダイスの神の片割れ、刹那! 魔法も使えない世界の神の力とくと見せて貰おうじゃないかしら」
金髪美女が指をパチン!と鳴らす。
それから金髪美女は余裕の笑みを浮かべながら説明を始める。
「今から行うゲームの名前はダイスゲーム。ルールを簡単に説明すると最初はお互いにダイスを振る。その後出目の数値分それをステータスとしてアバターと呼ばれる自分の分身に振る。それからお互いの数値が振り終わり次第すぐに戦闘開始。これが一ターンの流れでお互いのHPゲージがなくなるまでこれを繰り返すことになるわ。ステータスはそれぞれ攻撃、防御、スキルにステータスを振れる。とは言っても今回スキルはお互いに攻撃力UP【小】に限定しましょ。それとお互いのHPゲージは百。とりあえず前置きの説明は以上よ」
そう言って、魔法で作った仮想フィールドと一緒に刹那と金髪美女をそれぞれ模倣し手のひらサイズにまで縮小したアバターを生成し適当に立たせる。するとアバターが意思を持って動き所定の位置に付いた。
「意思を持ったアバター……」
クスッと鼻で笑い、答える金髪美女。
「正解。これは一般的にアバターと私達の世界では呼ばれている。言わば自分の分身。アバターは私達の命令を忠実に聞く。けど自我もある駒であり、ダイスゲームで戦う代理者でもあるわ」
「なるほど……そう言うわけね」
――これは分が悪い。
刹那は内心そう思い、舌打ちした。
今までしてきたゲームとは明らかにルールが違い過ぎる。
そうなるとイカサマされても気付く事はまず間違いなく不可能。
どころかさっきから何度か見ているが、魔法の仕組みも分からなければ魔法の兆候すらわからない。これでは目で見えない魔法に関してはサッパリだ。もし洗脳魔法や幻覚魔法でも使われたらそれこそ勝ち目は一ミリもない。
「……刹那?」
幾らダイスを使ったゲームが得意とは言えこれでは……。
刹那は心配そうに少し離れた所から見守る育枝に質問する。
「俺となら地獄の底まで来るか?」
「当然! それにピンチはチャンスだよ!」
その言葉にニヤリと表情を変える刹那。
それから大きく深呼吸をして弱気になった気持ちを切り替える。
相手は自称神様。
ならば手加減など不用。
ましてやこれは相手が熟知したゲーム。
ではあるが――。
一つ勝機があるとするなら。
これが――。
ダイスを使ったゲームであること。
「へぇー、逃げないのね。流石は私が見つけた逸材」
「それはどうも。ってことで残りのルールは?」
「出目はそれぞれの任意の出目分をステータスに振れる。戦闘ターンの流れとしてはまず攻撃力と防御力でお互いにそれぞれ勝負することになる。この時の攻撃優先権は完全なランダムで決まるわ。そして相手の防御力を上回っていたらその攻撃力分だけ相手のHPゲージを減らせるってわけ。逆に自分の攻撃力が上回っていなかったらお互いにダメージはゼロ。スキルの使用についてだけど今回は戦闘ターン突入時に発動が出来て使用制限は二回まで。発動条件はスキルに出目(ポイント)が三十必要で効果は攻撃力を一・五倍に上昇。それで戦闘ターンが終われば全ステータスゼロに戻ってまた始めからスタートって流れだけど、何か他に質問は?」
「なら三つだけ?」
「なにかしら?」
「攻撃力、防御力の大小に関係なく必ずお互いのプレイヤーに攻撃ターンはやってくるのか?」
「えぇ、そうよ」
「ダイスの面の数とゲームに使用するダイスはお互いに共有か?」
「そうね~、なら今回のルールはこうしましょう。面は百面ダイス限定。ダイスはお互いに持っている物で構わないわ。ただし出目の偏り防止の意味として今回はプレシジョン・ダイス(精密ダイス)限定よ」
なるほど。
考え方によってはこれは魔法の介入以前の問題なんだと思ってしまう刹那。
そして育枝もこのゲームの真実に早くも気付いたようだ。
このゲーム、抜け穴しかないのだと。
そんな二人の思考を見抜いたように、金髪美女が口を開く。
「先に言っておくけど、イカサマはダメよ。それと今回私は魔法を使わない。だから純粋な運の実力勝負と行きましょう」
それなら尚好都合。
一通りのルールを把握した刹那の頭の中にはある答えがあった。
相手が魔法を使わないのなら万に一つかもしれないが勝機が確かにあると言う事だ。
その確率は限りなくゼロに近いかもしれない。
だけどゼロじゃない。
だったらそこに全てを賭けるのもゲームの醍醐味であろう。
「なら勝負を開始するわ!」
「あぁ、かかってこい、自称神様!」
いざ、勝負開始!
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