ダイスの神は異世界を救う救世主となれるのだろうか~兄と異世界デートがしたい義妹~

光影

第1話 プロローグ


 ――『ダイス』


 それは卓上遊戯や賭博等に用いる小道具で、乱数を発生させるために使うもの。


 多くは正六面体で、安全面の配慮や転がりやすいように角が少し丸みを帯びている。


 市販のダイス――サイコロは一の面の目だけが大きく他は同じ大きさの事が多い。

 この場合、最も上になりやすいのは五の面である。

 これはサイコロの重心の偏りによるもので一般的に五が出やすいと言われている。

 また、各々の面において目の配置が点対称あるいは左右対称なのも、配置による重心の偏りをなくすための工夫となっている。

 わけだが――。

 そうじゃないダイスもこの世には存在する。


「暇だなぁ~」


 夜の灯りが漏れるマンションの一室でダイスが三つ転がる音が聞こえてくる。


 ――コロコロ


 一人の少年の手から零れるようにして落ちたダイスは何回転か回り止まる。


「どれどれ……結果は三つとも……【六】」


 この結果に対して、どうアプローチをするかは人それぞれ。


 これは偶然ではなく必然。だと言うのも自由。

 これは必然ではなく偶然。だと言うのも自由。

 これは偶然でも必然でもなく奇跡。だと言うのも自由。


 答えなんてものはこの世に存在して存在しない。

 そう言っても別に間違いではないだろう。

 すなわち捉え方は人それぞれだと言う事だ。


 ただしこの場合の正解は――。


「それグラサイ?」


「そう。これは【六】のグラサイ」


「へぇー、グラサイとか初めて見たよ」


「その割にはよく知ってるな」


「まぁ~ね。何処かの誰かさんがイカサマばっかり私にしてくるからね~」


「……ッ!?」


「だから知識だけはしっかりと付けておかないとだからね!」


 ――と、視線を合わさず会話する二人。

 部屋は十二畳と一人で使うには十分過ぎる広さがある。

 両親とは分け合って別居しているため、家にはいない。

 部屋は散らかっており、食べ終わったコンビニ弁当の容器やカップラーメン、後は飲料水などが散乱している為、少々汚い。だが足場の踏み場や寝るスペース等人が住む広さは確保されている。


 男女二人きりと言うシチュエーションではあるが、二人の間に今はえっちな会話ややましい展開は一切ない。

 たださっきから二人は困っているのだ。


 仕事の時間まで何を話せばいいのかと……。


「ねぇ……私邪魔?」


「邪魔……じゃない。てか自分の部屋に戻らないのか?」


「うん……。一つ聞いてもいい?」


「なんだ?」


「いつも思うんだけどイカサマしなくてもゲーム強いのになんで使ってるの?」


「秘密」


「なら話し変えて甘えていい?」


「だめ。それは仕事が終わってからな」


「いじわるぅ……」


 それから訪れた沈黙。

 二人にとって、これはいつもの事。

 そう――これがこの二人にとっての兄妹の仲だと言える。


 ただしこの二人ただの兄妹じゃないこともまた事実。

 なんせ二人合わせて年収五千万なのだから。

 それも手を抜いて。

 些細な気持ちで相手を出し抜いて。

 たったの数時間で。

 やる気すら出さずに。

 たったの十日ばかりの仕事で。

 自分達をカモにしてきたお金持ちで有名な某企業の社長の懐から逆に大金を巻き上げたのだ。

 善には善。悪には悪。イカサマにはイカサマで勝負。

 故に二人の勝利は必勝か運任せの二択しかない。

 当然、時と場合によって例外はある。

 だけど絶対に負けられない大事な場面での敗北は未だにない。


 兄――刹那。十八歳で今は育枝の義理の兄をしている。両親の再婚後分け合って現在は学校を休学し、生計を立てる為に自分の力でお金を稼いでいる。ゲームにおいては負け戦は負け戦とし、勝ち戦に力を入れる癖がある。また『準備は念入りに勝負は一瞬』を座右の銘とし、大事な場面での敗北は未だにない天才。容姿は平凡で黒髪ツンツン頭で体系は標準。


 一方、妹――育枝。十七歳で義理の兄に片想い中。銀色の美しい髪は腰下まであり、整った容姿はモデルのように美しく肌は白くと完璧美女。それでいて細身で胸は大きめ、性格も基本は明るめと男を落とす武器も兼ね備えている。だけどそんな育枝をもってしても義理の兄になった刹那を落とせない。それが悔しくて最近は密かに女磨きを頑張るなどシャイな一面がある。ただしゲームにおいては視野を狭めることはせずに平常心を意識して客観的に物事を判断する癖がある。基本は好きな人の活躍を見たい事から傍観者を決め込む事が多くあまりゲームをしないがよく暇な時は刹那のゲーム相手になるなど腕前は確かな様子。


「今からの仕事。本気でいくの?」


「あぁ、手ごたえがある相手だといいけど」


「そうだね。でもどっちみち私達二人の敵じゃないよ」


「あぁ、当然だな……って、どうせ俺一人の間違いだよな? 育枝?」


「てへっ」


 拳をつくり、頭に持っていく育枝。

 それから自分の頭を軽くポンッと叩いて可愛く舌をだす。


「わかった、わかった。付いてきていいから邪魔するなよ?」


「はぁーい!」


 元気よく返事する育枝。

 それを見た刹那は鼻で笑う。


 静かに時が流れ、時刻は二十一時ちょうど。

 それと同時に二人の兄妹が立ち上がり、部屋から出てマンションのベランダへと出る。夜風があり、春風が身に染みて半袖では少し肌寒い。

 そのまま身を寄せ合いながらも綺麗な星空へと視線を向ける刹那と育枝。

 すると星空の中に一段大きく存在感を放つ月が赤色に変色を始める。

 そのまま不気味な雰囲気を漂わせながら赤くなり、その光は徐々に強くなっていき、そのまま二人の兄妹を飲み込んだ。



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