車椅子の少女


 戸を開けると、車椅子に座り、沢山のコードやチューブに繋がれた長い髪の毛の少女がいた。彼女の髪の毛は紫色で透き通っていて、窓から差し込む微弱の光によってキラキラと輝いている。


「綺麗……」


 私は思わず呟き、唾を飲み込んだ。


 少女は何も反応をしない。


 時が止まった…と、そう思えた。私は少女に近づき、床まで垂れ下がった髪の毛を手で抄った。


少女の髪は雨音のような寥々たる静けさで、真っ直ぐと、絹糸のようにさらさら流れる。髪の毛を抄った手を、顔の近くまで運ぶ。そして、流れるように顔を埋めた。髪の毛からはすぅっとするようなお花の香りがする。


 少女は何も反応しない。


 私は顔を上げた。ふぅっと軽く息を吐き、そして立ち上がった。


「ねぇ、あなたは誰なの? 」

  

 私はゆっくりと少女の顔を覗き込んだ。


 少女は何も反応しない。


「まぁ、いっか」


 私は少女の後ろにある棚から瓶を取り出した。瓶を取ることが運命づけられていたかのように。そして、中身を少しだけ手に垂らし、瓶を棚に戻し櫛を代わりに取った。


「………」


 私は櫛の先に垂らした中身を塗り、少女の髪の毛を梳いていく。ゆっくりと、丁寧に、時間をかけて。一梳きするごとに少女の髪の毛は輝きを増していく。


「うん! もっと綺麗になった」


 私は正面から少女を見つめる。


 それでも少女は何も反応しない。

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失った少女たち 哘 未依/夜桜 和奏 @Miiiii_kana

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