崩れる世界とただよう父娘

「世界を変えるって…。それでお父さんは助かるの?」

「いいから寝ろって。もう一度、明晰夢を見るんだ」

俺は萌を寝かしつけた。ブランケットからはみ出す踝が愛らしい。俺は朱里を昼寝させていた頃を思い出した。家族はいいものだ。ふと窓を見やる。


暮れなずむ景色に街灯がともった。

小一時間ほど寝て萌は父親の事を語った。

夢の中で萌は俺に父親のことを話そうと思ったらしい。俺はステータスウインドウに釘付けだ。萌の戸籍がゆらめいている。抹消記録がちらつき始めた。どうやら彼は家出したらしい。


「お前のお父さんはどこに?」

「実家に行って、今帰ったところ。携帯もLINEもつながらない。何処なの?」

「お父さんは……」


俺も父親の立ち回り先に心当たりは無かった。ただ「何にも知らない」と言った。俺が宇宙論にあまりに突っ込んでいたから、萌はその話について行けなかったようだ。「もう一度、寝て見ろ。彼は何といっている?」

三十分後、彼女は眠りからさめた。


「何にも言わないの…」

萌が不安そうに言った。その時、俺が何も言わない所為で、萌が不安になっている事がわかったので、俺はあえて言わなかった。


「もしお父さんから聞いたことがあるなら教えてくれ」

そう言って俺は萌に父親の話を聞くのをやめた。萌はそれに気づかずその話を聞きたがったが、俺は萌は興味のないことを知ろうと、それを無視した。


俺は萌と話している内に夜が来ていた。家の明かりは消えていた。俺は萌に話しかけた。寝ては起きてを繰り返している。


「お父さんは何にも言わないの?」

萌は「何にも言わなくなったの…」とだけ話してから俺の父親を心配そうに見つめた。

「お父さんは何も言わないのね…」

「俺は何も言わない」

「そう…。でも、お父さんはまだ何も言わないし、何も言わないと思うの」

「うん…」

俺は少し寂しげな表情を見せた。

「何も言わないの…」

萌は表情を曇らせた。ステータスウインドウから父親の戸籍が消えていた。

「やったぞ。世界に影響を及ぼした。俺達が干渉したんだ!」


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