尊属殺人Re
「…その代わりこの異空間をけし飛ばそうと思えばいつでもできるわけだ」
俺は親父と自分のステータスウインドウを交互に見やる。
「それはお互い様だ。モラルマシーンはあすこだ」と彼はオルクス山を指す。
「回りくどい方法で俺をここへ呼んだ。貴方は俺に何をさせたいんです?」
俺はステータスウインドウに手をかけた。死亡日時を弄れば彼は再び死ぬ。
「破局噴火をキャンセルしたい。その願いは代償を伴うぞ」
教授の脅しを問題提起と受け取り俺はプランBを提案した。日本人を事前に疎開させる方法だ。「検討した」と彼は即答する。一億一千万の難民を収容する余裕はないし分散した避難先で紛争が起こる。結局、二十億人が死ぬ試算だ。
「どうしようもない運命なら痛みを和らげる努力をしようってか?」
「選択肢は多々ある。モラルマシーンの停止もその一つ。決定権は君にある」
彼は両手を広げて見せた。そしてわずかだが視線が萌に向いた、
「彼女は何のためにいる? 楠葉は鍵がどうとか言ってた」
その問いに萌がアイコンタクトで応じた。そしてスカートのポケットから小さな石を取り出した。
「これがそうです。ラムスデル鉱。火成岩の一種である流紋岩の割れ目に二酸化マンガンが沈殿してできたものです。青函トンネルの北海道寄りの工区や松前付近にはマンガンの鉱床がいくつかあります」
「それがどうした?」
「良く御覧なさい」
萌はステータスウインドウのカメラを鉱石に向けた。俺と共有する。
画像を拡大すると古代生物の化石っぽい紋様が見て取れる。
「ビル外壁の大理石に三葉虫を探してみましょうとか情報番組でやってるな。その虫が解決に貢献するのか?」
「ええ。これはフズリナという古生代の生物。道南ではありがちな鉱物」
知っている。古代生物の大量絶滅に巻き込まれた。今はコンクリートの原材料だ。そして二酸化マンガンはバッテリーの電極だ。まさか…。
「フズリナが知性を持っていたとかオカルトな話を展開するのなら俺は降りるぞ。どうせ、こういいたいんだろう? 『彼らの怨念がマンガン鉱床に保存されている! 破局噴火は祟りだ!』 人をバカにするのもいい加減にしろ!」
俺は無意識にキーを叩いていた。絞り込んだ光線が萌に向かってほとばしる。そして案の定、教授が盾になった。
やってしまった。
「教授、あんたはウソをついてまで俺に殺されたかったのか?」
青息吐息の彼に問うがこときれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます