尊属殺人

車で葛葉が向かったという集落をめざす。萌はそこで決着をつけるという。

ゆるゆると砂利道を漁港に向かって降りていく。バックミラーに映る萌は浮かない。

「結果的に葛葉さんを裏切るような気がして」

「俺があんたの夫でいいんだよ」

無言のまま車は港についた。無人の桟橋に木造船が連なっている。

車を降りると萌が俺の横に並び、目の前に立った。

小脇に自分のステータスウインドウを構えている。

「あなたは父親に似るのかしら?」


萌が聞いてきた。父親と俺は血縁関係があるものの、精神的な繋がりは殆どない。小学校入学前に蒸発した。そんな非情さに反発して俺は娘を溺愛し、亡くした。

「運命は遺伝しない。不可抗力を責めるなら筋違いだ」

俺は憤った。

「じゃあ、もしも、もしもの仮定の話よ」


彼女はステータスウインドウに何やら打ち込んだ。すると耳障りなブザー音が断続しはじめた。同時に背面のパネルが二つに割れて馬の鞍のようにせりあがる。

Λ型の両面にレンズがはまっていて赤く瞬いている。


「物騒な隠し機能だな…そのサイズじゃせいぜい失明させる程度だ」

一万mwの鳥獣撃退用レーザーだ。相手の目をくらませた転落死させるぐらいはできるかもしれないが…。


「これをお父さんに向けられる?」

いきなり直球か。俺は彼女の意図を察した。

「トロッコ問題か…必要とあらばやるしかない。だが、俺の実父を犠牲にして釣り合うだけの何があるっていうんだ?」

質問に質問で答えてやった。

萌の表情がますます険しくなる。「人類の未来よ」


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