わけありメール
「とにもかくにも、だ。俺は巻き込まれてというより駒として参加している?」
こちら側の萌はこくりとうなづく。そしてメールを開いた。
「まず状況を整理したい。廃業した特養、ありゃ何だ?」
「345回も貴方を説得してなかなか信じて貰えなかったので逆張りをしました。特養というヒントを歴史改変に組み込んで正解でした」
釣り針にしては大きすぎるぞ。「で、あの火山は何なんだ」
「言うなれば魚の骨です。歴史に刺さった」萌は肩をすくめた。
なるほど抜くのに苦労している。正体や由来はともあれ、
「向こうから指示書か何か貰っているのか?」
俺はメールの内容が気になる。
「――はい。これです。でも、肝心の部分が…彼女の所へどうやって帰ればいいか。どうやって彼女を倒せばいいのか。分からないんです」
そこには、樟葉の無念が添えられていた。彼女が生きているのが心配で、彼女を守れることができないまま、ここへ来ていたという事である。
「そうか。しかし、そこの書いてある通り、この坑道のどこかに
ドローンに先導されながら先を急いだ。ハリボテとは言え標高50メートルはありプロパンの火を噴く山だ。観測機器を惑わす本物のガスも混ざっている。油断禁物だ。
「樟葉はどこにいる?」
俺はあちら側の萌とチャットした。量子共鳴は世界線を越えてつながるらしい。
それによると火山と離島をつなぐ橋があるらしい。
渡り切ったところであちらの萌とZOOM会議をした。
萌は俺のほうを向いて「どうも、こんにちは」と、言った。この子の性格はいまいちわからない。
「いやちょっと聞きたいことがあるんだ。この島で誰がこっちの世界での人間と交流して何を得ようとしている?」
「誰がって? 貴方も駒なのでしょう?」
「それは……」
返答を探しあぐねた。俺は言葉を濁した。
こんな場所で母親の遺影と対面するとは意外だ。享年80歳。孫娘が早世したショックで認知症が一気に進んだ。一昨年、松前の施設で亡くなった。
そして萌は母親と因縁の深い男性像を映した。出来すぎた話だ。
この子は人を食ったような話し方をしているし、俺の父親と近い人間の話ならもっと多くの情報が手に入るだろうという。でも俺はこの子の父親を知らない。
「知ってるでしょう?」
萌が俺の顔を見て言った。「あなたのお父さんの話です」
「あ、ああ! そうだ」
何となく察した。フタマタか。ありがちな異性遍歴だ。だがその先が衝撃的だった。
「ええ、お父さんには昔の彼女がいるの。あなたのお父さんも彼女とお付き合いをしていて、自分の息子がいたという」
「俺にも子供がいる。その子は死んだんだ」
言ってやった。だが俺は言葉に詰まりそうになった。萌に八つ当たりしてどうする。
「俺はな――」
俺は萌の制止を振り払い、言いたいことだけ言った。
一人娘の一度きりの人生をたった一人の男に狂わされた。
「ごめんなさい。面倒に巻き込んじゃって」
こちら側の萌が謝った。
「分岐した世界の成因が不倫だと判っただけでも良い。お前はそんな父親の為に345回も修復に挑んだ。なぜそこまでする?」
萌は橋を渡り終えた先にある駐車場へ俺を導いた。
ポケットからキーホルダーを出す。黄色い軽のミニバンが一台。
「樟葉さんのお姉さんを助けるためよ。芽里さんも」
そういうと車のドアを開けた。
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