1-5

 くすんだ赤いジャージを着た四十代の男性は、体育の高橋先生である。角刈りで、日に焼けた頬を歪めて怒っている。


 カイリは首を傾げる。


 一体なにがあったのだろう? 高橋先生はおっかない見た目だが、あまり怒鳴ったりしないのに、本気で怒っているようだ。

 そして、学校の入口には、人だかりができていた。


 五十人くらいの子供たちと、何人かの先生。


 その中にはカイリのクラス担任、愛子先生もいるし、クラスのいじめっ子三人組もいる。


 いじめっ子グループは、運動が得意で体が大きい淳也が真ん中で威張っていて、右側にキツネみたいな顔の清志、左側にのっぽでガリガリの俊彰という配置である。

 左側に清志は来ないし、真ん中が淳也以外になることもない。

 なにかのルールみたいに、三人の立ち位置はいつも変わらなくて、カイリはおかしいなぁと思っている。


 そんな三人はひそひそと笑って、慌てている先生を見ている。


「……笑えるぜ、ほんと」

「ええ! 朝早く起きて、仕込んだかいがありましたよ」

「こんなこと思いつくなんて、淳ちゃん、すげえ!」


 カイリは不審げに、三人を見つめる。


「あいつら、なにやったんだ?」


 カイリはそばのブロック塀によじ登って、人だかりの先を見ようとする。

 朝と放課後、開いているはずの校門が、しっかりと閉じられていた。それも鎖で縛られて、南京錠がかけられた状態である。

 南京錠は朝一番におじいさんの用務員さんが解除して、扉を開いてくれるはずだ。

 なんで開けないんだろうと、カイリが思っていたら、先生たちの悲鳴が飛び込んできた。


「南京錠の暗証番号を変えたものは、出てきなさい!」

「やったものは、怒らないから出てきなさい。出てきなさい!」


 カイリは目を輝かせて、ぷっと笑い出した。


「あいつら、やりやがった」


 そこに花音が追いついてくる。ブロック塀から飛び降りて、事の顛末を話すと、花音は呆れたように、馬鹿じゃないのと呟いた。


「まったく、サラリーマンとか、みんな見てるじゃない。もうっ、恥ずかしい……!」

「面白いじゃん」

「だから、カイリは子供だって言うのよ!」

「な! なんだよ、それっ。女ってほんと、つっまんねー!」



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