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 毎日通っている、見慣れた景色がくるくる変わる。


 いつも乗ってみたいと見送る、蛍光グリーンの外車は、今日も道の片隅に駐車されている。カイリはその前を通るときだけ走るスピードを緩め、ひび割れた白壁の病院が見えてくると、慌ててスピードをあげる。


 のしかかるような圧倒的な冷たい白は、人々の生気を吸い取ってしまうように感じられて嫌いだ。


 ……あんなもの、壊れちまえばいいのに。


 舌打ちして真っ直ぐ前を向くと、河面の光と、早朝の雨に洗われたグリーンが目に写る。


「はは、へーんなの!」


 毎年、花火大会を観に行く河川敷では、最近、銀色の髪をした青年が珍妙な体操をしている。たぶん体操。もしかしたら踊りなのか。以前あまりにも気になって近寄ってみたら、一人で宇宙言語を喋っていたから調査は保留となっている。

 カイリは走るのをやめて、能天気な外国人を見下す。毒気が抜けて、怒りはため息へと変わっていった。


「大人は、呑気でいいよな」


 事あるごとに、大人は子供よりずっと大変だと父親に言われるが、そんなことあるものかと思う。


 大人は勉強をしなくて良いし、先生に怒られることもない。テレビだって自分の好きな時間に好きな番組を好きなだけ見ていられるし、夜更かしもできる。


 好きなものも買ってこられる。


「あー、新しいカバン欲しいなぁ。メカトロンライダーのカバンが出たんだよなぁ」


 今期の特撮ヒーロー番組の間に、カバンのCMが毎週流れる。はじめ興味はなかったはずが、何度も繰り返し見ているうちに、カイリはすっかり欲しくなってしまっていた。

 本当に欲しいヒーローのカバンは別にあるが、そちらは今入手不可能なので、メカトロンライダーでいいやという気持ちである。


 今、大人気、まさに旬のヒーローなのだし。


 それでもあと半年すれば、今期の特撮番組も終了することを、カイリはちゃんと知っている。

 ヒーローの寿命は、一年と大人が決めているから。子供の許可も取らないで、勝手に決められてしまった。


 ふと、カイリの脳裏に、三年前に輝いていた『彼』の姿が蘇る。

 孤高のヒーロー。カイリが憧れてやまない、頼りがいのある後ろ姿。

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