第555話 (最終話)だって俺…器用貧乏なんですよ。

「今国内でスティエット詐欺が横行していてね」

「は?何ですかそれ?」


リナを含めた全てのトウテの人間が「スティエット詐欺?」と思ってしまう。

確かに何ですかそれ?である。


「多分話の始まりは「王都に現れたスティエットと言う男が物凄い力を示してアプラクサスと私を手懐けて、ロウアンが後見人になった」事からスティエットを名乗る人たちが各地で悪さをしてね、愚かにも我が家にも来た輩がいたから始末しておいたんだが…、これからはその身分証を持ったスティエット以外は突っぱねて良いと通達を出す事にしたんだよ」


愕然とするミチトに「先程は言いませんでしたが、本日の城での話し合いはこのスティエット詐欺への対策もあったんですよ」とヨシが言う。


ミチトは混乱気味に「…え?」と言って縋るようにロキやヨシ、シックを見て「嘘ですよね?スティエット詐欺?」と聞く。


シックは申し訳なさそうに「恐らく遠縁の親戚だろうけどロキ殿に聞いたら縁はないから切り捨てて構わないと言われたよ」と説明をするとミチトは「それは良いですけど…」と返す。


アプラクサスが申し訳なさそうに「なので身分証に剣士や拳士、魔術師と書くとそのスティエット詐欺の人達もその身分証を持っていたらダメなので特殊な適職にしました」と説明をするとミチトは肩を落としてこの世の終わりのような顔で「…縁切ってもまだ付き纏われるのかよ」と言う。


話を変える為にもロキが「一夫多妻証明書も平民で一夫多妻はあまり聞かないのでこの度証明書を発行して貰いました。ミチト君はサルバン嬢とも将来があるとティナが言っていましたから」説明をすると見事にスティエット詐欺から一夫多妻に意識が向いたミチトがティナを見て「ティナさぁぁん!」と不満を言う。


ミチトからすればリナに対する真摯さを証明したいのにそのリナの親が一夫多妻を勧めてくる状況で何とも言えないのだがティナはシレっと「いいじゃない。孫を早く見せなさい」と言い切った。


ロキはミチトを台に残したまま「まあこの話は後にして、セルース、スード、ここで発表しますよ」と言った。

スードとセルースが前に出てきて「了解です」「あいよ」と返事をする。

台の上のミチトはなんでこの2人が呼ばれたかわからずに「セルースさん?スードさん?」と声をかける。


ロキがミチトに説明しつつ何も知らないミチトの家族たちに向けて「セルース達ラージポットのメンバーは私の私兵になって貰いダンジョン管理の仕事を手伝います」と言った。

この言葉に合わせるようにセルースがミチトに向けて「魔物が外に出てきちゃうようなダンジョンの辺りで魔物が悪さしねえように周りの連中を守るんだよ。すげえ給料いいし、休みもあるから頑張るぜ」と自分の状況を説明すると、ここでスードも「まあ俺達はダンジョン慣れしてるし、アンチ様達の話を聞くと俺たちって王都の騎士団並みに練度が高いんだそうだ」と説明をする。



それを聞いていたミチトは嫌な予感がしていた。

ミチトはロキを見て「…ロキさん?すごく嫌な予感がします」と言うのだがロキは初めてラージポットで会った日のような顔で飄々と「そうですか?ミチト君の願いと希望と我々の立場とかが綺麗に合致しましたよ?」と言った。


あの日のように「最悪だ」と言えないミチトは「くっ…、確かにそうですけど」と漏らしながらロキとセルースとスードを見ていると全員がニコニコと笑顔を向けてくる。


この状況がわからないリナは心配気に「ミチト?」と聞く。

ミチトは困り顔で「リナさん…やられた」と言って説明を始める。


「ロキさんがダンジョン管理の仕事をして、俺が正確なステイブルができるようになる手配して、スードさんとセルースさん達が俺の行かないダンジョンに行って働いて、オーバーフローは俺が行く事になるのかも…」

それで「特務隊ダンジョン攻略係」なのかと納得をしたリナは「…あらら…。ロキ様にお給料とかお休みとか聞きなよ」と前向きに話を捉える。


ミチトが聞く前にロキが「勿論破格の待遇はお約束しますよ」と言って微笑む。


「それに通達を出すのでその身分証があればどの領地のどのダンジョンでも顔パスで入れますよ」とヨシが説明するとローサが「ミチトさん、オーバーフローが無ければお休みは好きにとっていいのよ。それこそ今回の書状も一生持ってていいから王都でリナさんと婚前旅行でも新婚旅行でも好きに使ってね」といい点を強調すると最後に「ただミチトさんがやりたがっていた正確なステイブルのお手伝いをしただけ」と添えた。


ジト目のミチトが「…ローサさん?物は言いようですよね?」と聞く。ローサはニコニコと「あら、利害の一致よ」と言うと年相応に「やあねぇ」と言って笑い飛ばす。


「ロキがお嫁に来てもらうマテさんにつまらない嫌味なんかを言う貴族が現れない為にもダンジョン管理の仕事をやり切れば結果はついてくる。

ミチトさんが王都で力を奮ってくれたら今ここにいる皆は助かるわ。

この前も私は褒めたけどサルバンも麦で助かって、ガットゥーすら助けたそうじゃない?ヤミアール家もドデモ家もミチトさんに助けられたわ」


そう言って「うふふふふ」と笑うローサを見てミチトはロキとマテの名前まで出された事で事態を察して「リナさん、首輪増えた…」と困り顔で言う。


リナは話を聞いていてこの首輪がミチトを苦しめるものではなくミチトを守って理由を与える為の物だと理解した上で「あらあら…。まあこれからもマイペースに頑張りましょう」と言う。

それを聞いていたイブが「マスター!イブも手伝うから大丈夫ですよ」と言うとライブが慌てて手をあげて「私もいるよ!大丈夫だよマスター!」と言いアクィも「ミチト、私もいるからね!」と言ってメロも「パパ!皆でパパを助けるよ!」と言う。


これで完全に逃げ場も何もなくなったミチトは「…うぅ…王都嫌い。貴族嫌い」とだけ言って肩を落として台から下りるとモバテが「ミチト君、今回の事で城では君に爵位を与えてはって話が出たんだが」と言う。


本気で渋い表情をしたミチトが「…絶対嫌です」と言うとモバテが「だろ?代わりに断っておいたから貸しな」と言って笑う。


キチンと本気で嫌なポイントからは守ったぞと言うモバテ達に「えぇぇぇぇ?」と言ったミチトがロキを見て「…ロキさん、子供生まれたら仕事辞められます?」と聞くとロキは貴い者の表情で「ミチト君、子供には働く父の姿を見せてこその男ですよ」と返す。


「ロキさん、マテさんに2人の子供ができた時にも同じことを言えるか楽しみですよ」と意地悪く返すミチトに「ティナとデイブが居てくれます。その時は2人とも王都に来てくれると言ってますよ」と飄々と言い返すロキ。


何を言っても今日は勝ち目のないミチトがリナの横に帰って「はぁぁぁ…」とため息を一つつく。

リナはここで一緒に愚痴を言うのではなく「ミチト?やれないの?」と聞く。


ミチトは周りを見て「やれますよ。だって俺…器用貧乏なんですよ」と言った。

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