第553話 思い出作りその後リナ編・完成したアップルパイ。
「ヨシさんが終わるまでどうしましょうか?」
「何処でもいいからのんびりしようよ」
「もし、トラブルになったらごめんなさい」
そう言って国営公園に行ったが今日は特に何もなく済んでくれた。
穏やかな日差し、穏やかな風、横にはリナ。
ミチトはそれだけで心の底から癒されている。
それはリナも同じ気持ちだった。
夕方になってヨシを呼ぶとヨシは少し疲れていた。
心配をしたミチトが「大丈夫ですか?」と聞くとヨシは困り笑顔で「ええ…色々と話が動いて疲れました」と答える。
「話ですか…」
「ええ、ラージポットの後任の事なんかですね」
「え?後任決めるのに疲れる?」
「金色様がいらっしゃいますから下手な後任は選べません」
ここで金色を思い浮かべるミチト。今金色はロウアンやローサに国の状況を聞いては実際に飛んで行って見てくる日々を過ごしている。
あの金色の事を考えると確かに変な輩では困る。
「なるほど」
「それに金色様がいらっしゃると、異常事態以外に魔物達の氾濫もない事が判明しました。おかげで今のラージポット周辺は平和なものです。運良くと言うかこれで正確なステイブルの正当性も証明されました」
この事が初耳だったミチトは「あ、そうだったんですね。良かったです」と言うとヨシが「後は魔物の素材は売れましたがかなり恨み言を言われて疲れました。それだけですよ」と言って笑う。
リナが興味深そうに「ヨシ様、どのくらいの値がついたんですか?」と聞くと一瞬怖いような意地が悪いような顔になったヨシが「…聞きますか?」と言ってリナが頷くと「ディヴァント領30年分の純利益くらいです」と言う。
何となくだが、ディヴァント領の人間はもう働かないで済んでしまうのではないかとミチトは思ってしまう。
「ファットマウンテンの方が高難度の魔物ばかりなのでどうしても値段に差は出ますがここまで来ると関係ないですし、この一部は当初の予定通り、トウテと王都に来た術人間の子供達、後はミチト君にも配分します」
自分の名前が出たミチトが意外そうに「俺?なんでですか?」と聞く。
ヨシは眉間をおさえながら「なんでですか?君、働いたら対価を貰うモノですよ」と言う。
「俺は別に今困ってないし、住むところもあるし…」
「貰っておいて損はないので貰ってください。もう父上達もトウテに行ったはずなので直接トウテにお願いします」
そんな会話でトウテに帰ると…。
「…え?なんで?」
「やあ!お招き頂いたよ」
「思い出作りのその後は楽しめましたか?」
「ちゃんと書状を使ったか?」
トウテに居たのは王都に居ると思っていたシック、アプラクサス、モバテだった。
「シックさん?アプラクサスさん?モバテさん?なんで?」
「うふふ、私がお招きしたのよ」
「イブ達が迎えに行ったんですよ。3日間王都に行った時に何かのためにってお城のモバテさん達のお部屋を位置登録しました!」
この言葉にリナとの濃密なイチャイチャに頭が支配されていたミチトは自分の迂闊さを呪いながら「…マジか、言っておけば良かった」と言うとイブの肩に手を置いて「イブ、あんな怖い所には近寄っちゃダメだよ」と言った。
「イブは平気でしたよ。一緒に行ったライブはモバテさんから将来この部屋を使ってくれって言われてました」
ライブがモバテの部屋で仕事をする姿をイメージしたミチトは「…城、消し去ろうかな」と漏らす。
冗談にしても笑えない発言にアプラクサスが青くなって一歩後ずさる。
「ミチトさん、一応ソリードさんとクラシ君達はやめておいたわ。モバテさん達はその代わりね」
「はぁ…」
もうどうでもいいやと思うミチトの視野にはまた別の面倒な人が居る。
それはスカロとパテラでライブとアクィと談笑をしながらパテラに至ってはメロを肩車している。
「それになんでスカロさんとパテラさんも居るんですか?」
「イブに連れてこられた」
「ライブに拉致された」
来たいと言ったわけではなく逆に連れてこられていた事に「え?」と言って驚くミチト。
説明するようにアクィがアップルパイを出してきて「私のアップルパイは味付けを変えて5個作ったのよ。イブとライブには美味しいとは思うけど北部の味付けにならないって言われて仕方ないからスカロ兄様に来てもらったのよ」と説明をした。
この言葉に重ねるようにパテラが「いきなりアクィが帰ってきて俺とスカロにひと口アップルパイを食べさせてこの味付けにならないからトウテに来てくれと言われたんだ」と言うとスカロが菓子職人みたいな顔で「北部のアップルパイは恐らく酸味を加えるためにリンゴをビネガーに漬け込むのだろう。アクィのアップルパイはそれをしなかったから北部風王都のアップルパイだったのだ」と説明をする。
それを聞いていたイブが自慢気に「マスター!スカロさんは凄いです!」と言うとライブも「本当!あの店の味になったんだよ!」と言う。
「それに美味しいんです!」
「本当、私たちの好みの甘さを意識したって言ってすごく美味しいんだよ!」
北部料理の事になると目の色を変えるイブとライブの熱量を見たミチトは「…本当うちのイブとライブがすみません」とスカロとパテラに謝る。
「いや、我々も来られて何よりだった。イブがこんなに美しくなっているとは思わなかった」
「俺もだ、ライブがこんなに綺麗になっていて驚いたぞ」
そう聞いたミチトは謝っていたのに「驚く姿見たかったなぁ…」と言うとアクィを見て「アクィ、後で読心させて」と言う。アクィもスカロとパテラとミチトの事なので嬉しそうに「良いわよ。兄様達の顔は本当凄かったんだから」と言った。
ライブがスカロ作のアップルパイを一切れ持って「リナさん!食べてみてよ!」と言ってフォークを出す。ひと口食べたリナは「わ、甘いのに酸っぱいね。それのおかげでスッキリして美味しいね」と言う。
スカロは「良かった。リナ殿にも喜んでもらえた」と言いパテラがスカロの肩に手を置いて「スカロ、良かったな!」と言う。
ミチトは内心それでいいのかサルバン家と思ったが何も言わなかった。
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